後悔なんて、捨てた
「後悔なんて、捨てた───!」
1年前、あの川で泣きながら叫んだ。
そして、最近はいつもその川でクラリネットを吹いている。
だが、今日は吹かなかった。
チラリと自分の楽器ケースを見た。
昨日、ほぼ1年ぶりに奈津と話した。
あんなに、明るくなっているとは思ってもいなかったのだ。1年前は、もっとおどおどしていたのに。
そんなことを考えていると、トランペットの音が聴こえてきた。
凛奈だった。隣に来て吹き続けた。
「……上手いね。さすがだよ」
と、また顔を埋めると、今度はアルトサックスの音が聴こえてきた。
「奈津……」
この曲。誰もが一度は吹いたことのある曲。
『上手になってる……』
奈津の心地よい音色に、目を瞑る。
「───え」
目から、一筋の涙がこぼれ落ちた。
勝手に手が動いてしまい、楽器を取り出した。
音出しも、マウスピース練習もまったくしなかった。
『なんで、こんなに綺麗な音色が奏でられるんだろう』
柚子の美しい音が響き渡る。
マウスピースを口から離し、柚子は目をごしごしこする。
止まったかと思えば、また流れ出してくる。
「う、わぁぁぁぁ」
いままでの思いが、溢れ出して止まらない。
「後悔なんて、捨てた───はずなのに」
「柚子、ごめんね」
奈津の言葉に、泣き崩れてしまった。
「……私も、ごめんね……ほんとは、戻ってもいいかなって、戻りたいって……」
「いいんだよ。戻って来てよ。待ってる。みんな。だから、だから……」
「ごめんね、ごめんね……」
柚子は、ただごめんね、と言う言葉を繰り返していた。
どういう意味のごめんね、なのかは、このとき2人とも理解できていなかった。




