ここにいない誰かの話
気まずい空気が、公園に流れる。
あれから10分、20分ほど経ったのだろうか。
泣いてる者もいれば、黙って俯いている者もいる。
2年生は、北原第一公園に集まった。
「ねぇ、あのさ」
綾乃が手を挙げた。
「私さ、あの子が辞めてから話しにくかった。これからの部活と柚子っていう区別も、内心してた。もと吹部とか、そんなんじゃなくて、ほんとに帰宅部として見てる。これから吹部として柚子と関わることが怖くて」
と、腕を掴んだ。
もう、柚子は吹部じゃない。
「私は、話せないんじゃなくて話さないだけかな」
ノノカがつぶやいた。
「別に、吹部じゃなくなったら話すこともないし、そもそも部活やってたときはあんな雰囲気だったのにやめた瞬間けろっと話せるわけないし」
「でもさ……」
ざわざわと騒ぐ。
「やっぱり、私たちが戻って来てって言える立場じゃないよ」
誰かの言葉が響き渡る。
それと同時にまた沈黙が広まる。
「私、柚子にちゃんと話さなきゃ、」
「え、奈津?」
ずっと黙っていた奈津が、すっと立ち上がり、ふらふらと歩き出した。
「どこいくの?」
鞄に荷物をまとめていた。
「ねえ!」
伊織の呼んだ声に、目をカッと開き、走り出した。
「行かなきゃ」
浮かんだ涙には夕日がうつされていた。
どうか、まだあの河川敷に柚子がいますように。
まだ、クラリネットの音を、奏でていますように。
奈津は、必死に走った。
河川敷が近くなるところで、走り疲れて立ち止まってしまった。冬なのに、少し汗をかいている。
「はぁー……」
日ももうすぐで沈む。
少し暗くなりがちな空を見上げていると、クラリネットの音色が聴こえた。
ハッとなり、すぐに堤防を降りた。
どこにいるのだろう。
あたりを見渡す。
───いた。
震える手を抑え、ゆっくり、ゆっくりと、彼女に近づいた。
「───柚子」
そっと声を出すと、柚子が振り向いた。
「奈津……?」
彼女は驚いたように目を見開き、そして、にっこりと微笑んだ。




