奈津の考え
「え、柚子先輩、ですか」
奈津から初めて、"柚子"と言う言葉が聞こえた。
「知ってるでしょ? 柚子のこと」
はい、と目を逸らした。
私ね、と奈津の口がゆっくり動き出した。
「あの子と、変な感じで終わって、あの子が部活辞めちゃって……。そこからぜんぜん話せてない。でもね、最近よく2年生の間でね、凛奈と柚子が話してるって話題になってたんだ。私を除いて」
「は、はぁ」
「でね、これから2年生の定期会議あるから、そこで話そうかなって思って。てか、私が話さなくても誰かが言うでしょ」
と、さらりと落ちてきた髪を耳にかけた。
「私はね、柚子ともう1度話したいから。それもあるけど、私があの子が辞めるのを引き止めたとき、『クラも、吹部も嫌い』って言ってたの。その時はまだよくわからなかったけどさ、今になって考えたら、本当にそう思ってたなんて思えない」
「思ってません! だって柚子先輩、河川敷でいつもクラ吹いてるんです! 関西大会だって、見に来たんです……!」
凛奈の言葉に、唖然とした。
初めて耳にしたのだろう。
「そうなんだ……」
と口に出して、彼女は後ろを向いた。
「あの、奈津先輩……」
「ありがとね。教えてくれて」
彼女は凛奈を見た。
その頬は赤く染まっていた。
「よかった。そうだったんだ。そっか……」
奈津はショックどころか、嬉しそうだった。
「じゃあ、戻ってきてほしいよね。本人がいいっていう限り」
「───はい」
「じゃ、会議行ってくるから」
と、凛奈にありがとね、と告げて楽器庫を後にした。




