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後悔するなんて
聖菜は、まだ帰ってこなかった。
昨日の、自分の言った言葉が、頭の中でぐるぐる走る。
自分は、楽器やバンド、部活を辞めようと思ったことがあまりなかった。
どんなに他のメンバーたちと揉めたり争ったりしても、どんなに辛いことがあっても辞めることがなかった。辞めたいとも思わなかった。
楽しかったから。そう思うのと同時に、辞めたら自分が後悔するだけだからと思っていたから。
でも、考えれば考えるほど深くなっていくもので、凛奈は柚子ほど辛い思いを今までしたことがない。当然のように柚子は辞めたら後悔するとわかっていながらも、自分自身の事や周りの人間の事を考えた上での決断だったのだろう。
たぶん。
「ねぇ、凛奈」
「──っは、はい」
俯いていると、気付けば奈津が呼んでいた。
「ちょっと、いい?」
「……? はい」
凛奈は楽器庫へと連れられた。
「……どうしたんですか?」
「あのね、」
彼女の深い瞳が、凛奈をまっすぐ見つめた。
「柚子に、戻って来てほしいんだ」




