小林の車の中
目が覚めると、車の中にいた。
「小林先生の、車……?」
混乱してしまい、自分の記憶を辿る。
控え室で休んでいたはず。
いや、控え室での記憶がない。
「あ、起きた?」
「は、はい……」
と、運転席にいた小林が、凛奈が起きたことに気付く。
「……柚子に会ったか?」
「えっ」
小林がなぜそう思ったのか、わからなかった。
「見たから。俺も、あいつが来てるの」
やっぱり、柚子は来ていたのだ。
「どうして、天瀬先輩は辞めちゃったんですか?」
「……それを聞いて、お前はどうするんだ?」
「……」
黙りこんでしまった。
理由がないのだ。聞いて自分が得する訳でもないし、逆に損する訳でもない。
「知りたいだけです」
口からポロリと出てしまった。
小林は少し黙り込み、口を開いた。
「『リーダーだからって、調子乗ってる』。そう言われてた。 だめだと思うことをはっきり言う子だったから」
その瞬間、凛奈は凍りついた。
言葉が出なかった。
そして、俯き、少しして口を開いた。
「辞めて、やっぱり部活に戻りたいって柚子先輩が思ってるなら、私は戻ってきて欲しいと思ってました。だけど……」
そんな雰囲気で辞めたのなら、後悔しても戻れないだろう。
だが、何故柚子は関西大会に来たのだろう。
やはり、戻りたいのだろうか。
戻っても、気まずいかもしれないのに。
窓の外を見ると、まだ見慣れない景色ばかりだった。




