1週間もある
『音、綺麗だね』
美都だ。
『凛奈、コンクールのソロもそれくらい明るくね』
桜先輩。
『そう。もっと明るく。もっと、もっと。』
小林先生。
『凛奈ちゃんの音、明るくてすごく素敵! 憧れる!』
西野の金管バンドの後輩の夢花。
いろんな人たちの褒めてくれた言葉が、頭をぐる
ぐるさまよう。
パーンッ!
自分の出した音にハッとなった。
『だめだ。集中しなきゃ』
と、凛奈は自分の腕をぐっと握った。
「暗い」
「「はい」」
3楽章のトランペットのファンファーレ。
合奏で、小林がこれを聴いて言ったのがこの一言だけだった。
少しの沈黙の後、小林はもう1度言った。
「暗い」
「「はい!」」
はい、としか言えなかった。
「トランペットだけで」
「「はい!」」
パーンッ!
と、小林は顔をしかめた。
「1人ずつ。濱田から」
「はい」
パーンッ!
杏は、安定したハイトーンで、いつも通りだった。
「次」
「はい!」
パーンッ!
早苗は、CB♭(チューニングベー)を太く鳴らした。
「次、香坂」
「はい!」
パーン。
弱々しいFだった。
『私だ……』
さっきから暗いのは自分の音だった。
楽器を下ろし、俯いて
「すみません……」
と言った。
沈みきった凛奈を見て、小林は
「……。トランペットのFは暗くなりがちだから、ベルを少し上げて。で、もっとタンギングはっきり」
と、アドバイスした。
「はい……!」
『そうだ。まだ1週間もあるんだ。茉莉花先輩が言った通り、焦ったらだめだ』
と、自分に言い聞かせた。
「香坂、もう1回」
「はい!」




