表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
アンサンブル関西大会
232/423

不安の涙

「はぁ……」

柚子の事を考えないようにしたら、別の不安もいろいろ浮かび上がってしまった。

関西大会出場が決まった日、誰かが話していることが耳に入った。

「もしかしたら、北原全国いけちゃったりして!」

はしゃいだように、悪気なく言っていたのに、心の中で叫んでしまった。

『全国は、そんなに甘くない!』

強豪校の演奏している動画をサイトで再生することがよくある。

『あっ』

その中で、リードミスやハイトーンミスがある。

強豪校が出来なかった。強豪校なのにミスした。そんな言葉が出てくるに違いない。だが、同じ吹奏楽部員なのだから、ミスする回数は少ないかもしれないが、ミスをしないなんてことはありえない。

当時、ミスをしてしまったあの人は、どんな気持ちでいるのだろう。

関西大会で、もし自分がソロを失敗したら? 2楽章の綾乃とのアンサンブルが揃わなかったら?

こんな気持ちで挑んでいたのかと思われてしまう。これが県代表なのかと思われてしまう。これが北原中学校吹奏楽部なのかと思われてしまう。

そんなこと思われたくない。

『違う、もう一回……!』

違う。違う。

「もう一回」

あと1週間しかないのだ。

苦手なところをなくしたい。

潰していきたい。

「違う……! 違うのに……」

気持ちばかり焦ってしまって、余計うまくいかない。

ふっ、と糸かなにかが切れてしまったように、凛奈は重いフリューゲルを下ろした。

『屋上って、こんなに響かなかったっけ』

と、遠くを見た。

ガチャッ。

茉莉花が屋上の扉を開けた。

「凛奈ちゃーん? もうすぐ小林先生くる……凛奈ちゃん!? なんで泣いてるの……」

「えっ、あっ。え……?」

気付かぬ間に、涙を流していた。

「すいません……」

何故こんなにできないんだろう。

何故今まで軽く感じていたフリューゲルが(おもり)のように重たく冷たいのだろう。

何故失敗することばかり考えているのだろう。

何故、自分はソロを吹いているのだろう。

どうしたら。どうしたら。どうしよう。

『できないよ……』

瞳が真っ暗に曇っていく凛奈を見て、茉莉花は

「大丈夫。凛奈ちゃんならできるよ。焦らないで、一緒に頑張ろ?」

と、頭を撫でた。

「……はい」

「焦らなくても、凛奈ちゃんは努力してる」

凛奈は、重たいフリューゲルを、ぎゅっと抱きしめた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ