お見舞い
関西大会まであと1週間半。
「蒼先輩、一昨日から学校これるんだったよね……」
「まだ完全に治りきってないみたいね」
美鈴と愛菜は、すでに復帰していた。
聖菜は、やはりインフルエンザで、高熱のままだと言う。
「関西大会、大丈夫かな」
「うん……」
と、屋上を見上げた。
バストロンボーンの音色が、空に浮かび上がった。
「え、私ですか」
部活が終了し、帰りに職員室に寄るように小林に言われた。
「そうだ。これ、蒼の家に届けてこい」
「はぁ……」
と、分厚い『北原中学校』と書かれた封筒を受け取った。
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「あれ、蒼先輩の家って……」
凛奈は、1度家に帰って、バスであの駄菓子屋まで来た。
おそらく道に迷った。
最後に訪れたのは夏だった。
駄菓子屋で待ち合わせして、そしてどうしたのだろう。
「この道……」
右か左か。
「思い出せ、凛奈……」
この2択が凛奈を悩ませた。
「あれ、凛奈?」
振り返ると、ユリカがいた。
「ユリカ先輩」
「蒼の家?だったら左だよー」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃ、私塾だから」
と、彼女はすぐ去って行った。
「さよなら!」
ぺこっとお辞儀して、すぐに向かった。
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「あ、」
ここだ。
近隣よりも大きな家。『UMIUCHI』と書かれた表札。
おそるおそるインターホンを鳴らす。
《はーい!》
「あ、北原中学校の香坂です」
ガチャッ。
凛奈が挨拶した直後に出てきたのは、小学校高学年くらいの少女だった。
『わっ、い、妹さん? だよね、前、小6の妹がいるって言ってたから……』
「こんばんはー! もしかして、蒼兄ちゃん?」
元気な声に、可愛らしい笑顔で、蒼にそっくりだ。
「あ、うん。お兄ちゃん、大丈夫かな?」
「あ、もしかして、蒼兄ちゃんのカノジョ!?」
「え!? え、あ、うん……」
なぜ妹にまで知られているのだろう。
顔が熱くなっていった。
「私、妹の海内 乃愛! コルネットやってます! 」
ぎゅっと手を握られた。
「今、お母さんいないけど、上がって!」
と、乃愛に手を引かれた。
「あっ、お邪魔します!」




