インフルエンザ大流行
「ミーティングしまーす!」
「「……はい」」
元気のない返事に、茉莉花たち3人も驚く。
「ちょ、みんな、換気しよ、換気」
「窓開けてー」
「「はい」」
窓を開けると、ひゅっと冷たい風が入り込んできたが、すっと呼吸が楽になった。
「はい、閉めて閉めてー」
「みんな、いまインフルエンザとか感染性胃腸炎とか流行ってるから気をつけてね。マスクとかつけて」
「「はい」」
「じゃあ、出席確認しまーす。パートリーダー」
「はい。巫愛がインフルで休みです」
綾乃がすっと手を挙げる。
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新たにインフルエンザに感染したのは、萌論、愛菜、美鈴、そして蒼の4人。
「え、まって全員金管じゃん。しかも右端。トロンボーンやばいよ! 」
トロンボーンは、4人中3人がインフルエンザだ。
「風馬! ちょ、今日は帰って休んでな! あんたまでインフルなられたらアンコン出られないから!」
風馬は、少し青白い顔で頷いた。
「という事で!関西大会まであと2週間! 目標は、インフルエンザに感染しない! 予防をしっかりする! 以上!」
「「はい!」」
「今日は4時から合奏です」
「「はい!」」
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「「よろしくお願いします!」」
合奏が始まる。
「欠席は? だいぶ少ないな」
小林が聞く。
「新衣さんと根川さん、橘さんの3人に加えて、今日から増田さん、森野さん、樋野さん、海内くんがインフルで休みです。あと、佐塚くんは帰りました」
「金管にインフルエンザが多いな……。蒼がインフルか。一応関西大会までには復帰できるな。みんなしっかり手洗いうがいして予防するように」
「「はい」」
そうそう、と、小林が何か紙を手に取った。
「楽譜係。森早中がこの楽譜を貸して欲しいって言ってたから原譜とってきて」
と、係表をみた。
楽譜係は蒼、聖菜、巫愛の3人。
「間宮、とってきて」
「はい」
と、少しか細い声に、小林も異変を感じた。
『聖菜……?』
ふらふらと歩く姿に、池田が動き、聖菜の額に手を当てた。
その瞬間、ガクッとバランスを崩して、倒れこんだ。
「聖菜!」
凛奈と加奈子が聖菜に駆け寄った。
小林も慌てたように動き出した。
「熱がすごいです」
真っ赤になった顔を見て、
「山本先生呼んできます!」
と、加奈子が走り出した。
凛奈も自分の手に持っていたタオルを手洗い場で濡らした。ひんやりと冷たいはずの水が、ぬるく感じた。
小林は騒然となった音楽室を見渡して、
「今日はもう速やかに下校するように。友達の家に行く、人混みの中に入るのは禁止します。家の中で過ごすこと。バス通学の人もできるだけ歩きで帰ってください。手洗いうがいは帰って必ずしてください」
と言った。
「「はい!」」
木管楽器たちは、急いでスワブを通し、金管楽器もクロスで指紋や汚れを急いで取る。
凛奈が冷やしたタオルを聖菜の顔に当てたが、すぐに温もってしまった。
よほど高熱なのだろう。
「聖菜、聞こえるか」
目が開いているが、意識が朦朧としているようだ。
やっと保健の先生が駆けつけた。
「とりあえず、保健室に運びましょう」
「香坂、高野。先生たちがするから、楽器片付けて帰る用意してこい」
「「はい……」」
と、小林が聖菜を持ち上げ、教師たちが音楽室を後にした。
「ねぇ、凛奈……」
「うん?」
2人は楽器をクロスで磨いた。
「聖菜、大丈夫だよね……」
「うん……」
少し怖くなってしまい、ぶるりと震えた。
「聖菜……」




