伊藤千尋
そして、金曜日。
穂花も部活に参加するようになったが、優香は1人ドラムを叩いていた。
ガラッ!
茉莉花が、誰かを連れて入ってきた。
「こ、こんにちは!」
たまたま音楽室にいた夏帆が挨拶した。
「「こんにちは!」」
他の音楽室にいた部員も、慌てて挨拶する。
「こんにちは!」
音楽室に入ってきたのは、唄華と桜、真織と、さらに、見覚えのない3年生の4人だった。
その少女は、スティックケースを持っていた。
「千尋先輩……!」
穂花が叫ぶ。
優香は唖然としていた。
1年生2人は、誰か知らずに、戸惑ってばかりだった。
「麻由ちゃんと夢跳愛は初めてだよね。伊藤千尋先輩です」
「「こんにちは」」
「こんにちは!」
千尋は笑顔で挨拶する。
「穂花、優香」
「「はい」」
「アンコン、お疲れ様。関西、行けなかったの、悔しいよね。すごくわかる。だけどね、私のことは気にしないで。だから、これからも、楽しく演奏してほしい」
と、自分のスティックから、2つのスティックを取り出し、穂花と優香に差し出した。
「これからも、がんばれ。関西行けなくて、辞めたいって気持ちはわかる。だけど、いまを乗り越えて、夏のコンクールで関西行ってほしい」
「「……はい!」」
2人は泣きながらスティックを受け取った。
そして、穂花は、優香の手を引っ張った。
「あ、あの……。ごめんなさい。これからも、私についてきてほしい、です。よろしくお願いします」
「「はい!」」
意外にも帰ってきた返事に、涙が止まらなくなった。
「千尋先輩……っ!私、頑張ります!」
「うん。がんばれ」
優香は、泣きながらとびきりの笑顔を見せた。




