分かりきれない悩み
「優香、待って!」
優香に追いつく10メートル先で、彼女は振り向いた。
「なに」
彼女の凍った瞳を見て、和音と風香は顔を合わせた。
「え、と、その……」
「あのさ、やっぱその……、関西行けなくて悔しいのはわかるけどさ、」
「えと……、優香が悪いわけじゃないじゃん? 皆頑張ってたし、なにより」
「なんでそんなこと言えるの?」
優香が問いかけてきた。
「知らないくせに。なにも、知らないくせに。私がどんな気持ちでアンコンのぞんだか。なにもわかんないくせに。なにがわかるって言うの?」
はっ、と冷たく笑い、震えた声で尋ねる。
「アンコンなんて、最初から出なかったらよかったんだ。こんな思いするんだったら。じゃ、私帰るから」
震えたその声で、また、優香は歩き出した。
「アンコンなんて……? 出なかったらよかった……?」
優香のその言葉に、ピクリと握っていた手が動いた。
「……和音?」
次の瞬間、和音の顔が上がり、その顔は真っ赤になっていた。
「そんなこと言わないでよ! 出たくても出られなかった人だっているのよ!? なに贅沢なこと言ってんの! 頑張ったんでしょ?! 楽しめたんでしょ?! 私だってあの舞台に立ちたかった! 秋桜で、最高の演奏をしたかった! だけど、出られなかった!だから他のこと頑張ってたのに! 私たちの気持ちまで背負って出られた人の応援だって! 」
和音の涙の訴えを無視し、スタスタと歩き続ける。
「なにもわかってないのはあんたのほうよ!」
優香の肩が上がる。
そのまま、彼女は学校を去ってしまった。
「和音……」
ぐすぐすと鼻をすする和音の背中を、風香はさするしかできなかった。




