悔しさと涙
知らなかった。
初めて知った。
頭から離れない、小林の言葉。
──関西大会は2年ぶりで、──
おそらく、2年生は知っていたのだろう。
講評にも書いてあった。
杏に聞くと、
「一昨年までは、アンコンはずっと県代表だったらしい」
と言う。
パート練習中、そんなことをずっと考えながら音楽室へ向かった。
「ねぇ、優香、ほんとに、切り替えよ?」
3の4から穂花の声が聞こえる。
凛奈は思わず隠れて話を聞いてしまう。
「確かに2年連続で関西逃したのは悔しいけど、ずっと引きずっていくの? 先生だって言ってたし、それに、ほら、これからコンサートもあるし、それに、3年生になればコンクールだって、」
「だからと言ってもさぁ!」
穂花の言葉を遮るように、優香は大声を出した。
「穂花は、悔しくないわけ!? 私は悔しい! 去年も、今も! 今年こそはって思った! 千尋先輩の涙見て、あんたは何も思わなかったの!? 」
「悔しいよ。だけど、それを関西に進めた人たちにその悔しさを押し付けるのは、卑怯だよ」
声も震え、目を真っ赤にする優香とは対照的に、穂花は冷静な目で見つめた。
「なんで、なんで! 私は押し付けてなんかいない! アンコンでも精一杯のことはやった! それでも、関西行けなかったんだよ……? 」
「あんた、中1以下なんじゃない? 麻由ちゃんも夢跳愛もちゃんとわかってくれた」
「あの子達は、まだ来年があるんだよ!? 私たちは、もう1度、なんてできない! 悔しいよ! どうして、こんな思いしなきゃいけないの……!? 私たち、あんなに……っ、あんなに必死にやってたのに、なんで関西にいけないのぉ……!?」
泣き叫ぶ優香を見て、穂花も顔を真っ赤にして言った。
「私だって悔しいよ! でも、もう終わったことじゃん! 次に進まないといけないんじゃないの!?」
「忘れろって言うの!? 今年のアンコンも、去年のことも……」
優香の目から、ぶわっと一気に涙が溢れ出してくる。
「もういいよ……。こんな、こんな気持ちになるなら、アンコンに出なきゃよかった……! パーカッションにならなきゃ、吹部に入らなきゃよかったよ!」
優香が教室を立ち去ろうとした。
『あ、や、ヤバい!』
凛奈は必死に壁に張り付く。
幸い、走り去った優香には気付かれなかった。
『あ、穂花先輩……』
穂花の様子が気になって、ドアから少し顔を出した。
「……う、っ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあッ!」
ドクン。
泣き崩れた穂花を見て、怖くなってしまい、泣きながら走り出した。
「うっ、っうあぁ……」
しゃがみ込んで、泣いてしまった。
いま、結局自分にはなにができるのか。なにも、わからなかった。




