空気の合わない涙
「はぁ……」
「どーしたの? 疲れちゃった?」
「はい。疲れちゃいました」
アンサンブルコンテストの夜、13人は打ち上げに茉莉花の家へと集まった。
「茉莉花、ありがとね! でもお母さんいないのに大丈夫?」
「うん! もうお母さんには言ってあるし、今日は帰り遅くなるらしいから」
「「ありがとー!」」
「「ありがとうございます」」
ちらりと優香を見た。
完全に飛んでいる。
ぼーっとしているのだ。
優香の視線の先には、自分の鞄につけられたスティックケースがあった。
「凛奈、コーラとオレンジ、どっちがいい?」
「あ、オレンジで」
打ち上げと言っても、皆が家からお菓子などを持ってきて、全員で食べたり喋ったりするだけの集まりだ。
凛奈はロールケーキとブラウニーを前日に作って持ってきた。
「ちょ、このロールケーキうま。誰が持ってきた?」
早苗がきく。
「あ、私です」
「めっちゃ美味しい!どこの?」
「自分で作ったんです」
「「ええぇぇぇぇえ!」」
1年生3人はもぐもぐと食べ、2年生だけが驚く。
「凛奈、不器用なやつだと思ってた……」
穂花がぷぷっと笑う。
「バレンタイン、楽しみにしてる」
早苗が、凛奈の肩に手を置いた。
「え、えぇぇぇ!」
プレッシャーをかけられてしまったものの、笑って答えた。
「がんばります!」
どっと笑いがおこる。
それでも、優香はずっと黙って、凛奈の作ったブラウニーを口に入れた。
「甘い……」
ポツリと呟くと、優香は涙を流し始めた。
それに気付いて、皆静まってしまう。
「っあ、ご、ごめん、」
と、慌ててすぐに目をこするが、よし、と笑顔を見せた瞬間また涙が溢れ落ちる。
「ほ、ほんとにごめん、ちょっと外出てくる」
と、コートを羽織って外へ飛び出した。




