プログラム2番「情熱火花」
「北原中学校のみなさん、こちらへどうぞ」
音出しが終わり、パーカッション4人は舞台裏へと向かっていた。
ぱたぱたと乾いた足音が響く。
沈黙の中、急に夢跳愛が立ち止まった。
「どうしたの?」
穂花も立ち止まり、それにつられて麻由と優香も立ち止まった。
「や、ちょっと怖くなっちゃって……」
震える声、こぼれ落ちそうなくらい目に溜まった涙。
それを見た優香は、カッと目を見開いた。
「泣くな!」
びくりと体を震わせる夢跳愛。
と、優香は今度は優しい笑顔で言った。
「泣くのは、終わってからにしよう」
「……はい!」
ゴシゴシと目をこすり、よし、と、4人でで笑顔で向かった。
「千尋先輩、見てくれてるかな」
ポソッと優香の言った言葉が、1年生2人にはあまり聞こえていなかった。
だが、穂花には聞こえていた。
「大丈夫。リベンジするよ」
2人には、あまりよくわからなかった。
【プログラム2番、北原中学校、打楽器4重奏。曲目は、情熱火花です】
ぱちぱちぱち……
『頑張って……』
金管メンバー達は祈る。
皆、1度目を見合わせる。
凛奈は、優香が何かを喋っていることに気付いた。
そして、皆構えて、穂花の深いブレスで始まった。
穂花のグロッケンソロから始まる。
ソフトで、ゆっくりなリズム。
鍵盤担当は夢跳愛と麻由だが、2人は最初トムトムと小物をするため、ソロは穂花が担当する。
グロッケンのソロの途中から優香、麻由、夢跳愛の3人のソリも始まる。グロッケンと全く拍の合わないリズム。
突然グロッケンの音が消える。ティンパニの割れそうなくらいの音で、掻き消されたのだ。
ダンッ!ダンッ!
sffzでリズムを打つ。
スネアに戻った穂花が、ざかざかとロールを始める。
2人も鍵盤楽器に戻り、和音を響かせる。
優香がシンバルにうつり、スネアとシンバルのソリ。
涙が出てきた。
「……かっこいい」
真剣に音楽を愛して楽しく演奏する4人の姿がとてもかっこよかったのだ。
曲の後半、今度は麻由がビブラフォンソロをしている間、静かにトムトムのセットを2セットずつ、つまり太鼓を8つ並べた。
そして、また自分のところへ戻った。
クライマックスと近づき、4人の背景は曲名のように赤く燃え上がる炎のようだった。
またsffzでのリズムを打ち、穂花がトムトムの前に並ぶ。
そして最後、穂花が走りながらトムトムを順番に叩き始めた。リズムはバラバラで、8つの太鼓を3往復して、最後にバンッ!と太鼓の皮が破れるくらいの音を鳴らして、終了した。
息切れしながらも、深呼吸をしてマレットを下ろした。
正面を向いて、お辞儀する。
会場の全員がその空気に飲み込まれていた。
一瞬沈黙があったが、その後盛大な拍手が巻き起こった。
【只今の演奏は、北原中学校の皆さんでした】
アナウンスと共に退場する。
汗だくのなか、優香は汗に紛れて涙を流していた。




