棄権と退部
月曜日。帆南は放課後の練習に来ていなかった。
だが、パート練習中に小林が桜を呼び出し、何やら話している。桜は驚き、考え込んでいる。
その後、小林と桜が2の1に入って来た。
「えーっと、須野の件なんだけど」
ドクン。凛奈の頭には昨日の事がまた蘇る。
紗江は心配そうにこちらを見る。
「コンクールオーディションを棄権したいと本人が言っていました。あと、退部のことも考えてるみたいです」
「退部の、理由は何なんですか?」
杏がおずおずと小林に聞く。
「部活を辞めて受験勉強に専念したいらしいです」
本当にそうなのか?メンバーは疑問に思う。
「はい。では基礎練を続けてください。中断して申し訳なかったですね」
それだけ言って、小林は出て行った。と、トランペットパート全員がそれと同時に
集まって円になった。
「あのさ、紗江に聞いたよ。帆南が凛奈に当たってたこと」
と桜が言う。
「えぇー!?帆南先輩って……」
と驚いた様子で早苗が大声で答えるが、その後は大声で言えない事なのであわてて口をふさぐ。
「そうだよ。OGの人も、うちらも、他のパートの人もあいつの事嫌いだったよ」
椅子に座り足組をしながら紗江が言う。
「でもさ、あれだけ凛奈に嫉妬しといて辞めるとか、マジで無責任。凛奈こんなに傷ついちゃってるのに、ねぇー!」
と桜が言いながら凛奈の頭をなでる。
「ずっと帆南先輩に言おうと思ってたけど、練習全然してなかったですよね」
杏が思い出すように言う。
「あの……結局帆南先輩はどうしたかったんですか?凛奈に当たって、それなのに棄権しちゃって、よくわからないんですけど……」
加奈子が困惑した顔で発言する。
「そうだよねー!なんかよくわからなかったし。
でもあいつ、最近ずっとイラついてたし」
「「「………」」」
最初に沈黙をきったのは凛奈だった。
「あの、私、どうしたら、」
「凛奈は何も悪くないよ。気にすることない」
と、杏が優しく応える。
「よし! この話はやめて練習しよう! 忘れよう!」
と、桜が提案し、さんせーい!と紗江が応える。そして、また基礎練が再開し、そのまま練習が終わった。