合宿1日目 真夜中に
「……」
なんとなく目が覚めてしまった。
「アンサンブル……」
ポツリと呟いた。
綾乃に聞きたいことがあったのだが、彼女はすぐに眠ってしまったのだ。
『去年のアンコンって』
アンサンブルコンテストは3人から8人程度で行うもの。しかし、今年、2、3年生のパーカッションパートは2年生2人。去年のアンサンブルは確か金賞だった。
『2人でアンサンブルなんて、できないよね……』
変に疑問が頭の中をぐるぐるまわる。
ムクリと起き上がり、時計を見た。
2時。少しぐらい外にでてもバレないだろう。
キィィ……。
「うぅ、やっぱ寒い……」
ジャージにコート、なんとなくおかしな格好だ。
周辺を歩き、秋桜ホールの裏口に入った。
「あ、あれ」
裏口の階段に、水色の水筒が置いてあった。
凛奈の水筒だ。
「忘れてたの、気づかなかった」
冷たくなった水筒を持ち、ぶるりと震えた。
空は、綺麗な星空だった。
「綺麗……」
と、携帯の音楽をつける。
星空の下、凛奈は1人、アンサンブルコンテストのことを考えていた。
『関西、全国か……』
「はっくしゅ」
『だめだだめだ、風邪引く』
と、戻ろうとした
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キィィ……。
フロントから青白い明かりが見えた。
「なに、あれ」
と、怖がりながらも興味本位でフロントを覗いた。
小林だ。
小林は、自分のスマホにイヤホンをつけ、なにやら真剣に聴いていた。
カタカタとリズムをとっていた。
パーカッションのアンコンの曲だろう。
邪魔してしまったら、その前に見つかってはいけない。
こっそり戻ろうとした。
「香坂?」
「は、はい! 」
「大声出すな」
「あ、すみません……」
こっちこい、と小林が手招きした。
「消灯時間すぎてるぞ?」
「す、すみません」
「まぁいい。お前、最近どうだ?」
最近。と言うのは、このあいだのミーティングが終わってからのことだろう。
「特に、大丈夫です、けど、」
「けど?」
凛奈は俯いた。
「1年生が、コンクールでもソロもらったり、アンコンでフリューゲル吹いたり、先輩方はがんばってっておっしゃってるんですけど、どうなのかな、って……」
自分は、今なにを言っているのだろう。
小林は、ソファに座り、ふぅっと息を吐いた。
「お前、知ってるか? 西宮 羽奏。いまは皇城高校でトランペットやってる。高2かな?多分西野小出身だったと思う」
「あ、はい、知ってます」
西宮 羽奏。凛奈と同じ西野小のブラスバンド出身だ。本当に尊敬する先輩で、凛奈の憧れだった。引退してもよくNIOに教えに来てくれた。
「西宮も1年生なのに、本当によくソロしてたりしたよ」
「はぁ……」
「レッスンに来てくださる講師の先生には必ずって言ってもいいぐらい上手いと言われてた」
「じゃあ、コンクールも」
「もちろん」
小林は頷いた。
「じゃあ、羽奏ちゃん……西宮先輩の先輩とか、同級生の方は」
「表ではなにも言わなかった。西宮の前でも、後輩の前でも。だが、裏でも結構悪口は聞いていた。西宮たちの学年にはトランペットは西宮1人しかいなかったからな。その前の学年が4人もいたから」
「そんなにいても、1人でソロ吹いてたんですか?」
私なら……、と考えてしまう。
「最初は俺が西宮にソロをするように頼んでたんだが、いつの間にか全部西宮がするようになってたんだ。先輩4人もそうするって言っていた。だけど、本人はキツいような顔1度もしなかった」
さすが羽奏だ。と思うが、彼女はどんな気持ちでソロを吹き続けていたのだろう。
「まぁ、俺は2年生2人が香坂がソロすることに文句はないと思うけどな」
本当にそうならいいけど……。
なんとなく、羽奏に会いたくなった。




