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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
二泊三日のハード合宿
176/423

合宿1日目 1回目リハ

大ホールに入り、急いでイスを並べる。

約1時間半の練習、ずっと立っているとさすがにしんどいと感じるのだ。

客席には、アンサンブルには出場しない部員がいる。聖菜と加奈子は、凛奈を見つけては手を振っていた。

【それじゃ、音出しして】

「「はい!」」

小林は、当日の審査員の座っている、いわゆる審査員席に座り、マイクで話す。

凛奈はトランペットをスタンドに置き、フリューゲルのチューニングをした。

【最初から通してください】

「「はい!」」

恍惚、絶望、感謝、そして幸福。

この3つそれぞれの感情を意識しながら曲は進んでいく。

そして、吹き終えると、小林が言った。

【全体的に、音が止まってる。もっと息を入れて。あと、香坂】

「は、はい!」

【フリューゲルソロ。舞台の1番手前まで来て。そうそう、濱田とおなじライン。じゃあ、2楽章から。香坂はソロが終わったら自分の場所に戻って】

「「はい!」」

2楽章が再び始まる。

金色のフリューゲルがライトに反射する。

ソロが終わり、戻ろうとすると、チカッとライトが眩しすぎて、バランスを崩してしまった。

体が宙へ浮いたと思ったら、舞台の下に真っ逆さまに落ちたのだ。

ダァン!

「凛奈!」

小林の指示が出る前に演奏が中断された。

「ちょっと、大丈夫なの?」

「凛奈、落ちたよね?」

客席からも不安の声が広がる。

「いったぁ……」

「凛奈! ちょっと大丈夫!?」

と、舞台にいた皆が舞台の下に降りてきた。

小林も驚きながら駆けつけた。

「あ、楽器!」

と、慌てて楽器の方を見た。

フリューゲルは、凛奈がしっかりと両腕で持っていた。

凹みもなかった。

「良かった……」

ホッと安堵の声を出す。

「良くないよ! あんたは大丈夫なの!?」

と、ノノカがぐいっと凛奈の腕を引っ張り、無理やり立ち上がらせた。

「だ、大丈夫です! 中断させてしまってすみませんでした!」

時間を、無駄にしてしまった。先輩たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

【じゃあ、もう1度2楽章から】

「「はい!」」


「じゃあ、移動しまーす!」

「「はい!」」


「先輩たちすごかったねー!」

「来年はうちらもあそこに立つからねー」

「は?何言ってんの? アンコンでるのは金管だし?」

「はぁー? 木管だし! ぜっっったい負けないからねー!」

「……」

騒がしい列の中、1番前にいる副部長の奈津は、黙り込んでいた。

「やっぱり、同級生が舞台立ってんの見ると、落ちたんだ、って実感わくね」

と、隣にいた鈴音が話しかける。

「……うん」

はぁっと奈津がため息をつくと、白くなり、ふっと消えていった。


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