合宿1日目 1回目リハ
大ホールに入り、急いでイスを並べる。
約1時間半の練習、ずっと立っているとさすがにしんどいと感じるのだ。
客席には、アンサンブルには出場しない部員がいる。聖菜と加奈子は、凛奈を見つけては手を振っていた。
【それじゃ、音出しして】
「「はい!」」
小林は、当日の審査員の座っている、いわゆる審査員席に座り、マイクで話す。
凛奈はトランペットをスタンドに置き、フリューゲルのチューニングをした。
【最初から通してください】
「「はい!」」
恍惚、絶望、感謝、そして幸福。
この3つそれぞれの感情を意識しながら曲は進んでいく。
そして、吹き終えると、小林が言った。
【全体的に、音が止まってる。もっと息を入れて。あと、香坂】
「は、はい!」
【フリューゲルソロ。舞台の1番手前まで来て。そうそう、濱田とおなじライン。じゃあ、2楽章から。香坂はソロが終わったら自分の場所に戻って】
「「はい!」」
2楽章が再び始まる。
金色のフリューゲルがライトに反射する。
ソロが終わり、戻ろうとすると、チカッとライトが眩しすぎて、バランスを崩してしまった。
体が宙へ浮いたと思ったら、舞台の下に真っ逆さまに落ちたのだ。
ダァン!
「凛奈!」
小林の指示が出る前に演奏が中断された。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「凛奈、落ちたよね?」
客席からも不安の声が広がる。
「いったぁ……」
「凛奈! ちょっと大丈夫!?」
と、舞台にいた皆が舞台の下に降りてきた。
小林も驚きながら駆けつけた。
「あ、楽器!」
と、慌てて楽器の方を見た。
フリューゲルは、凛奈がしっかりと両腕で持っていた。
凹みもなかった。
「良かった……」
ホッと安堵の声を出す。
「良くないよ! あんたは大丈夫なの!?」
と、ノノカがぐいっと凛奈の腕を引っ張り、無理やり立ち上がらせた。
「だ、大丈夫です! 中断させてしまってすみませんでした!」
時間を、無駄にしてしまった。先輩たちに申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
【じゃあ、もう1度2楽章から】
「「はい!」」
「じゃあ、移動しまーす!」
「「はい!」」
「先輩たちすごかったねー!」
「来年はうちらもあそこに立つからねー」
「は?何言ってんの? アンコンでるのは金管だし?」
「はぁー? 木管だし! ぜっっったい負けないからねー!」
「……」
騒がしい列の中、1番前にいる副部長の奈津は、黙り込んでいた。
「やっぱり、同級生が舞台立ってんの見ると、落ちたんだ、って実感わくね」
と、隣にいた鈴音が話しかける。
「……うん」
はぁっと奈津がため息をつくと、白くなり、ふっと消えていった。




