怒り
今年のコンクール曲の曲名は
『輝夜姫〜月の輝き〜』だ。
凛奈は、オーディションで吹くフレーズにマーカーでチェックする。もちろん、ソロもオーディションで決める。
凛奈は、
『桜先輩は絶対受かるだろうなー』
とぼんやり考える。桜はマイと同じく東野小吹部出身で、プロ並みの技術を持っている、全国レベルのトランペット奏者だ。紗江も同じで、経験者だ。となると、現在、凛奈、桜、紗江の3人の経験者がこのパートにいるのだ。
私も、先輩たちに負けてられない。私だって、ソロを吹きたい。私も頑張ろう!と、腰より少し上の長い髪をポニーテールにする。
準備室のトランペットのロッカーへオイルを取りに来た。すると、帆南がロッカーの前に立っていた。
とても冷たく、奥の方まで光っていないその眼で、 「あのさ、」
と言ってきた。声が、低い。
こんな先輩初めて見た。そう思いながら、息を呑んだ。
「あんま調子のんなよ。楽器も買って、経験者で上手いからって私のことなめてんの?」
こ、怖い。凛奈は震えが止まらない。
「わ、私は……」
チッ。舌打ちが乾いて聴こえる。
「あんたのそんなとこが……」
「帆南。凛奈。もうパー練始まるよ。」
と、紗江がドアの所に腕を組んでもたれかかっている。紗江は帆南を睨んでいる。
「あ、凛奈、いこー♪」
と、パッと映像がかわったように、いつもの軽々しい紗江に戻り、あのかわいい笑顔に戻った。最近はオーディションが近いのでメイクはしていないが、素のかわいさが紗江にはあるのだ。
さっきの、あまり気にしないほうがいーよー。と紗江が言う。そして、ニコッと笑った。それにつられて凛奈も笑顔になった。