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佐野家
「行こっか」
麻帆はドアを開けた。麻由は頷く。
外に出て、家を見る。
「信じられない。私たち、家を出て行くんだ」
と、少しドキドキしながら言葉が漏れていく。
「麻由、麻帆!」
と、呼び止められた。母だ。
「……行こう」
麻帆はそれを気にせず行こうとした。
だが、麻由は立ち止まっている。
「……麻由? 行こ?」
「あ、うん」
「待って! お願い。戻ってきて」
と、父も出てくる。
「お母さんと話し合った。麻由、桜橋に行きたいんだろう。お前の好きなところに行けばいい」
「え、」
「やりなおしましょ?」
気まずい4人の空間。
「それって、」
と、麻帆が先ほどの険しい顔から、ぱぁっと明るくなった。
「麻由! あんた桜橋行けるよ!」
「うん、うん!」
麻由もつられて、笑顔が溢れる。
父も母も、笑っている。
「それじゃ、中にはいりましょ。風邪引いちゃうわ」
「うん」
「ところで麻帆、次の試験はいつなんだ?」
「え、ん、まぁ、そのうち」
「まぁまぁ。今日はいいじゃん」
と、佐野家は暖かくなった。




