麻由の姉
「麻由、一緒に帰ろ」
と、3人は誘った。麻由は、コクリと頷き、笑顔になった。
「これから、塾がない日とか一緒に帰ってもいい?私もバス通学にする」
「うん! もちろん!」
と、3人は頷いた。
バタン。
静かに扉を閉めると、足元には見覚えのないブーツが置かれていた。
『お姉ちゃん!?』
父はまだ家にいる。
家族全員が揃うのは、姉が大学に入学する前が最後、つまり、2年前だ。
「だから、なんでそう言う思考になるの!?」
姉の声だ。久しぶりに聞いた。
リビングで父と母と姉が喋っている。
麻由は、あまり入ってはいけないと思ってドアの影に隠れていた。
「だからって、なにも私の人生を決めることないじゃない! 私のことなんだから私自身に決めさせてよ」
「お前はまだなにも分かっていない。誰のおかげでここまできたと思ってる?」
「ちょっとお父さん。麻帆、お父さんとお母さんはね、麻帆のことを考えて言ってるだけなのよ、なにも押し付けてる訳じゃ」
「そんなに親に反抗的だから渚和高校にも行けなかったんじゃないか」
母の言葉を遮るように父は言った。
父の言葉に、姉、麻帆は顔を真っ赤にした。
「お父さんはいつもいつもそればっかり! どうしてそんなに渚高に行かせたいの? 私にだって行きたい高校はあった! 滑り止めだった高校が、たまたま私が行きたかった学校で良かったけれど、あの子は!? 麻由はどうなの!?」
『え、私?』
「あの子だって、行きたい高校ぐらいあるはずよ! どうしてもあの子を渚高に行かせるって言うなら、」
と、ツカツカとこちらに歩み寄ってきた。
ドアをバンッと開き、がしっと麻由の腕を掴んだ。
「この子と出て行くから」
と、麻由に向かって、こんな事を言い出したのだ。
「麻由、あんた自分の行きたい高校どこか言ってみな」
「え、」
「いいから」
「……桜橋高校に行きたい、です……」
「……いい加減にしろ」
父が言うと、麻帆は決意したように、いくよ、とだけ言って、麻由の腕を掴んだまま2階へ上がり、麻由の部屋に上がり込んだ。
「荷物まとめて。私のアパート来な」
麻帆の言うアパートは、隣町のことだ。
わざわざこのために寮を抜け出してアパートを借りたと言う。
「え、でも、」
「大丈夫。ちゃんと学校もいけるようにするし、高校だって私が桜橋に行かせてあげる。それに、私結婚したい人いるから」
と、麻由の棚を勝手に開け、どんどん鞄に詰めていく。
中学1年生には、あまりにも重く、恐ろしいと感じるだろうが、麻由は、少し嬉しかった。
麻帆がこんなにも頼りになるお姉ちゃんだったなんて、思いもしなかった。




