麻由の成績
バタン。
部活が終わり、麻由は「ただいま」を言わずに家に帰ってきた。
「おかえりなさい。麻由」
「あぁ。うん」
「……父さんが麻由を呼んでいたわ。はやく行きなさい」
「帰ってきてるんだ」
麻由の父は、単身赴任で1ヶ月に1回のペースで帰ってくる。
ガチャッ。
「麻由。おかえり」
と、父が麻由に近づき、1枚の紙を突きつけられた。
「これはなんだ?」
それは、2学期の中間テストの成績表だ。
全て70点以上。平均も上回っている。
だが、麻由にとっては震え上がるような点数だった。
「父さんとの約束、覚えてるか?」
「……80点以上じゃなければ、」
と、麻由が俯いた。
「部活を辞めて勉強に専念しなさい」
「……」
「はぁー。お前には結構期待してたんだぞ。麻帆も70点しか取れなかったんだから」
麻帆は、麻由の姉で、現在大学の寮で暮らしている。
「とにかく、お前には勉強しかないんだ。期末テストまであと2週間しかないわけだぞ。明日、先生に言ってしっかり取り組め」
と、麻由の肩を叩き、リビングから出て行こうとした。
「勉強だけじゃない」
震えた小さな言葉は、父の耳に届いていた。
「あたしには、ドラムがある」
と、父がなにかを投げ、麻由の頭にあたった。
バサッ!
そこには、問題集の文字があった。
「ドラムから離れろ。そんなのだったら渚和高校にもいけないぞ」
渚和高校、通称渚高は県内でもトップの高校で、姉、麻帆は渚和高校を受験したが失敗に終わってしまったのだ。
「いい加減、だれがここまで育て上げたか考えろ。今日はその問題集全部終わるまで寝させない」
と、父は自分の部屋に戻っていった。
『あたしにだって、行きたい高校はあるのに』
〈ぶーっぶーっ〉
メールが来たが、見たくもなかった。
『明日ミーティングあるのに……』
最悪のタイミングだ。
と、麻由は自分の部屋に戻って問題集を解き始めた。




