小林と蒼
美鈴は、凛奈に気づかずスタスタと歩いて行ってしまった。
ホッと安心していた時、小林も出てきた。
「香坂……? なにやってるんだ?」
「あ、小林先生……」
と、小林は考え込んだ。
「いま、森野が蒼を呼びに言ってるんだが、少し話そうか」
「……はい」
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連れて来られたのは、体育館と講堂をつなぐ廊下の隅だった。
「香坂、これ」
と、見せられたのは、退部届と書かれた3枚の紙だった。そこには、近藤菜穂、笠井光里、そして森野美鈴と書かれていた。
「う、そ……、先生、3人とも辞めちゃうんですか!?」
「いや、まだだ。退部届は預かっているだけで、まだ辞めてない。森野は蒼を呼びに行ったあと帰るように言っているだけだ」
と、その一言にホッとすると同時に、涙が出てきた。
「……っ、私、ずっとずっと逃げてたんです……っ。自分に、……関わってなくても、……助けなきゃ、止めなきゃって思ってるのに、……どうしても無理で……、私、リーダーに向いてないのかなって……」
凛奈は顔を伏せた。
自分のやってきたことが、罪悪感でいっぱいになり、苦しくなったのだ。
「そうか。でもそれはお前がリーダーじゃなくても、他の奴でも逃げてしまうから。大丈夫だから、な」
小林が励ましてくれる。
しばらく顔を手で覆い、ぐすぐすと涙が止まらなくなった。そして、気づけばそこには小林ではなく蒼がいた。
全然気づかなかった。蒼と小林はなんとなく似ているのだ。
「蒼先輩……」
「小林センセーが、凛奈を家に送ってけって……」
と、頭をかいた。
彼女が泣いているところを見られたくないと思っているかもしれないから。
「とりあえず、涙拭けよ」
と、タオルを貸した。
「かえろーぜ。自転車だすから」
と、駐輪場へ向かった。
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「そーだ。海の道通っていこーぜ」
「え?」
海の道とは、海の隣の道路に作られた堤防のことだ。
木や花が育てられていて、海の眺めは最高だ。
「ぎゃあぁぁぁああっ!」
「あー! 気持ちいー!」
と、蒼が立ち漕ぎを始めた。
凛奈は慌てて、蒼にしがみつく。
今は11月だ。
寒くてもおかしくない。
買ったばかりのカーディガンの袖を掴む。
「せ、先輩! 怖いです! 立たないでください!
それに、2人乗りってだめじゃないんですか!?」
「だいじょーぶだろ!」
と、必死にしがみついた。
「せ、先輩寒いです!」
「そーか? ほら!」
と、手を引っ張られ、凛奈も立った。
すると、海がキラキラと光って見えた。
「わぁぁ!」
凛奈は興奮した。
「な? 綺麗だろ?」
「はい……!」
みなさん、自転車の2人乗りはやめましょう。




