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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
1年生1人1人の心
134/423

止めないと

『どうしよう……、止めないと、止めないと……!』

気付けば、目から涙が溢れていた。

と、曲がるところで小林とぶつかりそうになった。

「あ、こ、小林先生……」

思わず後ずさりした。

「なんだ? どうした? 」

小林は凛奈の涙に気付き、驚いたように伺った。

そこで気付いた。

「私、逃げてるんだ……」

ポツリと小声で呟いた。

「え? なんて言った?」

小林には聞こえなかったようだ。

と、ゴシゴシと目をこすり、

また愛菜たちの方に走り出した。

「お、おい! 香坂!」

--------

「みんな!」

「り、凛奈……」

美鈴がまずい、と言う顔で凛奈を見た。

「や、その、そういうの、よくないってゆーかさ。日向は思ってることをそのまま口に出しちゃったんだよ。うちらもあるでしょ? 思っていることと言ってることが違うの」

「うん。まぁ、そうだけどさ、」

と、巫愛が日向をチラッとみた。

「いくらなんでも言い過ぎじゃない?金管が簡単だなんて。それを真面目にやってる人のことをどう思ってんの?」

日向がグッと唇を噛む。

「ほら、日向。言いたいことあるなら言いなよ」

「え、そ、その……、」

と、全員の視線が日向に向けられた。

「ご、ごめん、なさい……」

と、日向はポロポロと涙をこぼした。

さっきまで強気のが嘘のようだった。

「その、冗談のつもりで言ったり、自分の言ったことが伝わらなくてヤケになっちゃって、口走って……、その、ご、ごめん」

「ばーか」

「え、」

一瞬その言葉にドキッとした。

「はぁーあ。もういいよ。もう気にしないし」

「うん。私も」

と、巫愛が日向の肩にポンと手を乗せた。

「う、うん」

と、目を乱暴にこすり、泣き止んだと思ったらまた泣き出した。

「えーまだなくのーw」

「もういーよ! 気にしないからさー」

と、いつもの仲に戻っていて、ホッとした。

「あ、お弁当まだ食べてない! このメンバーで食べよ!」

「うん!」

凛奈は、自分の腕を強く握った。

自分はさっき、逃げようとしていたのだ。

なぜ、あんなことをしたのだろうか。

『私、卑怯だ……』

「凛奈ー? いくよー!」

「あ、うん!」

愛菜たちに呼ばれ、急いで追いついた。

ツキっと痛むその腕には、三日月型に深く爪のあとが残っていた。

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