止めないと
『どうしよう……、止めないと、止めないと……!』
気付けば、目から涙が溢れていた。
と、曲がるところで小林とぶつかりそうになった。
「あ、こ、小林先生……」
思わず後ずさりした。
「なんだ? どうした? 」
小林は凛奈の涙に気付き、驚いたように伺った。
そこで気付いた。
「私、逃げてるんだ……」
ポツリと小声で呟いた。
「え? なんて言った?」
小林には聞こえなかったようだ。
と、ゴシゴシと目をこすり、
また愛菜たちの方に走り出した。
「お、おい! 香坂!」
--------
「みんな!」
「り、凛奈……」
美鈴がまずい、と言う顔で凛奈を見た。
「や、その、そういうの、よくないってゆーかさ。日向は思ってることをそのまま口に出しちゃったんだよ。うちらもあるでしょ? 思っていることと言ってることが違うの」
「うん。まぁ、そうだけどさ、」
と、巫愛が日向をチラッとみた。
「いくらなんでも言い過ぎじゃない?金管が簡単だなんて。それを真面目にやってる人のことをどう思ってんの?」
日向がグッと唇を噛む。
「ほら、日向。言いたいことあるなら言いなよ」
「え、そ、その……、」
と、全員の視線が日向に向けられた。
「ご、ごめん、なさい……」
と、日向はポロポロと涙をこぼした。
さっきまで強気のが嘘のようだった。
「その、冗談のつもりで言ったり、自分の言ったことが伝わらなくてヤケになっちゃって、口走って……、その、ご、ごめん」
「ばーか」
「え、」
一瞬その言葉にドキッとした。
「はぁーあ。もういいよ。もう気にしないし」
「うん。私も」
と、巫愛が日向の肩にポンと手を乗せた。
「う、うん」
と、目を乱暴にこすり、泣き止んだと思ったらまた泣き出した。
「えーまだなくのーw」
「もういーよ! 気にしないからさー」
と、いつもの仲に戻っていて、ホッとした。
「あ、お弁当まだ食べてない! このメンバーで食べよ!」
「うん!」
凛奈は、自分の腕を強く握った。
自分はさっき、逃げようとしていたのだ。
なぜ、あんなことをしたのだろうか。
『私、卑怯だ……』
「凛奈ー? いくよー!」
「あ、うん!」
愛菜たちに呼ばれ、急いで追いついた。
ツキっと痛むその腕には、三日月型に深く爪のあとが残っていた。




