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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
アンサンブルコンテスト予選
125/423

空気の苦しさ

「奈津! 待って!」

奈津に続いて、茉莉花と鈴音も音楽室を飛び出した。

凛奈も後を追った。

走る奈津の手を茉莉花が掴んだ。

「奈津!」

「もう……、もう無理だよ! そんなんだから柚子(ゆず)も辞めちゃったの! 私が……、私があの子を守ってあげることができたら……!」

柚子。初めて聞く名前だ。

いつもの奈津は、しっかり者で、姉のような存在なのだが、この時ばかりは少しちがった。

と、奈津がふらつき、茉莉花にもたれかかった。

「奈津!」



---------

「まぁ、軽い貧血。心配することはないわ」

「はい……ありがとうございます」

茉莉花が保健の先生に礼をした。

「鈴音ちゃん、凛奈ちゃん、外で待っててくれる?」

「え、」

「おっけー」

凛奈側としてはそれは非常に気まずい。

恋敵"だった"鈴音と2人になるなんて。

ガラッ。

扉を閉めた途端、鈴音が言った。

「あのさ、もういいよ」

「え?」

「そんなにずるずる引きずられても鈴音も困るし」

と、彼女は少し赤くなった。

「あ、はい」

と、クスッと笑った。

鈴音を悪魔だ、魔女だと言っていた自分がおかしく思えたのだ。

「まぁ、それは置いといて」

と、コホンと軽く咳払いしてごまかした。

「さっきの柚子って子、初めて聞いたでしょ?」

「あ、はい」

「吹部だった子」

だった───。過去形と言う事は、元部員と言うことなのだろう。

「どうして、辞めちゃったんですか?」

と、鈴音が俯いた。

「耐えられなかったの。空気に」

「空、気ですか」

空気。その言葉で、なんとなく理解ができる。

「いじめとかじゃないの。そのギスギスした空気で苦しくなっちゃったの。柚子が」

「楽器、何だったんですか?」

「クラ。鈴音たち、もともと3人だったの」

3人。自分たちと一緒だ。

もともと2人だったから、まだ無いけど、いずれかは揉め事が起こってしまうであろう微妙な人数だ。

「鈴音にはとめられなかった。とめたら、あの子がかわいそうだったから」

「……」

「ここだけの話、その柚子って子、もともと1年生リーダーだったの」

「え!? そうなんですか!?」

「だから、責任を感じて自分を攻め続けて耐えられなくなったんだろうね」

と、彼女はしゃがみ込み顔を埋めた。

空気。その言葉に少しドキッとした。

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