香坂家
「ただいまー」
凛奈の声に、反応する者はいない。
凛奈が一番早く帰って来たのだ。父は大学病院の内科医で、母は人気雑誌の編集長なので、帰ってくるのが真夜中がほとんどだ。だが、ごくたまに凛奈が帰った時に両親がいることがある。2人は、子供と団欒をするために、早く帰ってくるのだ。
そして、凛奈には双子の弟・朝緋がいる。
朝緋は、現在、凛奈とは違い、西野中に通っている。
西野中は、香坂家の地域にある公立中学校だ。
もともと香坂家の地域は、西野中、北原中の2つの校区にあるのでどちらか選べる。だが、この地域の学生のほとんどが西野中である。
朝緋の所属するサッカー部の顧問は、スパルタ顧問として地元でも有名だ。最終下校時間になっても、出した課題をマスターするまで帰らせない。保護者はもちろん反論するが、子供達に勝利した瞬間を味わってほしいんです、と顧問が言うと納得らしい。
2時間程して、朝緋が帰ってきた。
「はぁー。疲れた……」
「お疲れー。ご飯置いてるよー」
凛奈はスマホを見ながら返事する。
「さんきゅ。あ、凛奈」
「なあに?」
「あのさ……明日はメンチカツがいいなww」
「はぁー?私だって帰ってくるの遅いんだからそんなの無理でしょ〜」
凛奈はいつも母の代わりに晩御飯を作っている。
「じゃあハンバーグ!」
「肉しかないの?ww」
こんなしょうもない話をしていると、なんと父が帰ってきた。その後すぐに母も。
「父さん、母さん、今日は早かったな」
いつもはもっと遅いのに。と朝緋がきく。
「今日は少し凛奈と話したい事があるの」
「え、私だけ?」
「そうだ」
「ま、とりあえずご飯食べよ!今日はパスタだよ!」
と凛奈は疲れている両親を気遣う。
「そうね」
母の笑顔で、さらに何の話か気になってきた。