正々堂々と
「ねぇ、」
「は、はい」
緊張して変な声がでる。
「私ね、すごく悔しいの」
「は、はぁ……」
と、聖菜は階段の手すりにもたれる。
「こんなことで、凛奈ちゃんと仲悪くなったりするのが悔しい」
「え……?」
「私も、いままで一緒にやってきて、あの時は私が悪かったけど、今度は誰も悪くないような感じじゃん? それで分裂するのはやだ」
加奈子が髪をいじりながら言った。
「凛奈は?」
「わ、私は、」
ここでハッとなった。
もし、ここでこんな理由で選ばれたのが悔しいと言ったら、贅沢な悩みなのではないかと。
「言って」
「でも、」
「いいよ。ちゃんと最後まで聞く」
もう、どうなるかわからない。
凛奈は、素直に自分の気持ちを吐き出した。
「こ、こんな理由で選ばれたのがやだ! 聖菜もカナも、ずっとフリューゲル頑張ってたのに……。
私、演奏面で勝負したかったの!」
と、聖菜はふぅっと息を吐き出した。
そして、
「やっぱりね」
と、つぶやいた。
「オーディションの前からわかってたよ。凛奈が選ばれるって」
加奈子も、私も、と言うように頷いた。
「ど、どうして」
「だってさ、私、引っ越してきてまだ1ヶ月半だよ? たぶん小林先生もそれで凛奈にしたんだと思う」
「私さ、ソロ吹いたことないから、本番で緊張しちゃうから私も凛奈だと思った」
「……だけど私は……、正々堂々と演奏で勝負したかった」
「私たちもだよ」
「だけどね、」
と、2人は凛奈の前へきた。
「私たちが友達であることには変わりない。だから、頑張って!」
と、凛奈の手を握る。
「うん! 来年、絶対一緒にでる!」
と、目を擦った。
3日後の予選で、出場が決まる。




