トラウマ
「凛奈ちゃんさ、特別扱いじゃない?」
「え?」
小5の秋、突然言われた言葉。
「ソロいっぱいもらってさ、アンサンブルにも出られる。5年生なのに、6年生みたいで。さやかたちみたいに下で頑張ってる子もいるんだよ?」
その子の名前はさやか。
さやちゃんは私と美都と一緒にコルネットをやってた。
「え、そうかな」
「そうだよ」
はっきりと言われたその言葉から、妬みが含まれてるなんて、私にはわからなかった。
「もしさやかの方が上手かったら? 凛奈ちゃんは今のさやかとおんなじ気持ちになると思う」
さやちゃんの涙なんて初めて見た。
「特別扱い……。そんなの、されてる方はされたくてされるもんじゃないと思う」
と私は言ってしまった。
「……う、うわぁぁぁあん!」
さやちゃんは泣き崩れた。
オロオロする私の元へ、美都と先輩がやってきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい……」
私も涙が溢れた。
先輩が私の背中をさすってくれる。
怖くて、震えて、何もできなかった。
さやちゃんは、二度と練習に参加することなく半年後に転校してしまった。
葉月市ではない、遠い遠い町へと引っ越した。
それから私は、自分の意見を言えなくなってしまった。
目が覚めた時、外は暗かった。
『……あ、久しぶりに見た。さやちゃんの夢』
まだぼーっとしていた意識も、ハッとなった。
『わぁぁぁぁあ!』
制服のまま寝てしまったことに後悔している。
パタパタとスカートの皺を伸ばし、ため息をついた。
「そうだ、ご飯」
今日、この時間にコンビニに行くとマイがいるかもしれない。
「……やっぱいいや」
と、下へ降りて冷蔵庫を覗いた。
「よし、なにか簡単なもの作ろう」
朝緋はまだ帰ってきていなかった。
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次の日。
「あ」
「あ」
朝練で加奈子とばっちり会ってしまった。
「お、おはよ、う……」
「おはよ」
彼女はニコッとしてから練習場所へ向かった。
なんだか胸がツキツキする。
「ねぇ、凛奈ちゃん、」
聖菜と加奈子が、練習中に凛奈を呼び出した。




