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北原中学校吹奏楽部  作者: 星野 美織
アンサンブルコンテスト予選
108/423

とりあえず吹いてみる

次の日。

「はぁ……」

聖菜はため息をついた。

「えっと、うちにもフリューゲル2台あるんだけど、1台修理中だから合わせて2台しかないから時間とか3人で相談して決めてね」

「「はい」」

3人は円になった。

「……えっと、どうする?」

加奈子がケースを見つめる。

「とりあえずどっちが自分にあってるか吹いてみたらいいと思う。」

凛奈はそう言って、ケースからフリューゲルを取り出し、2人に手渡した。

「あ、凛奈ちゃん先に使っていいよ」

聖菜は遠慮した。

「え、でも」

「いいよ。あたし後で吹くから、後で貸して」

「……うん。わかった」

そう言って凛奈はマウスピースを吹いてみた。

トランペットとは違う、柔らかな音。

そして、楽器をつけて吹いてみると、ホルンのような暖かい響きを出した。

「すっごーい! フリューゲルってこんな音なんだー!」

と、加奈子は目をキラキラさせる。

「私もやってみる!」

と、加奈子も吹いてみる。

だが、案外難しい。

「え……、なんか全然凛奈と違う音なんだけど……」

「フリューゲルは難しいからねー。私もコツとかわかんないわ」

と、凛奈も首をかしげる。

すると、聖菜が、

「フリューゲルは、トランペット・トロンボーンと違って錐菅(すいかん)なの。トランペット・トロンボーンはまっすぐに音が伸びる直管で、コルネットとかフリューゲルとか、その他の金管楽器はほとんどが錐菅で、錐菅ってゆーのは、音がまっすぐじゃなくてとてもよく響くの。だから、息をしっかり入れないとだめ。ベルも下げないで」

と言って、加奈子の持つフリューゲルのベルをそっと上げた。

そして、加奈子はその体勢のまま吹いてみた。

すると、明るい響きを出した。

「すごっ! 聖菜、詳しいんだね!」

「え、うん。まあ」

と、凛奈が聖菜にフリューゲルを渡した。

「聖菜、やってよ。吹いたことあるんでしょ?」

「え、なんで……」

聖菜はびっくりしたように凛奈をみた。

「そんなに詳しいのに吹いたことないなんてありえないよ」

と、ニコッとした。

「……うん」

と言って、凛奈からフリューゲルを受け取った。

「ねぇ、なんか吹いてみてよ」

と、加奈子が言い、聖菜がコクっと頷いた。

そして、ゆったりとしたフレーズを吹き始めた。

『この曲……!』

そのフレーズは、To our glorious futureだった。

凛奈は、昨日の晩に聴いていたので、すぐにわかった。

誰よりも輝いた、プロのような音だった。


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