とりあえず吹いてみる
次の日。
「はぁ……」
聖菜はため息をついた。
「えっと、うちにもフリューゲル2台あるんだけど、1台修理中だから合わせて2台しかないから時間とか3人で相談して決めてね」
「「はい」」
3人は円になった。
「……えっと、どうする?」
加奈子がケースを見つめる。
「とりあえずどっちが自分にあってるか吹いてみたらいいと思う。」
凛奈はそう言って、ケースからフリューゲルを取り出し、2人に手渡した。
「あ、凛奈ちゃん先に使っていいよ」
聖菜は遠慮した。
「え、でも」
「いいよ。あたし後で吹くから、後で貸して」
「……うん。わかった」
そう言って凛奈はマウスピースを吹いてみた。
トランペットとは違う、柔らかな音。
そして、楽器をつけて吹いてみると、ホルンのような暖かい響きを出した。
「すっごーい! フリューゲルってこんな音なんだー!」
と、加奈子は目をキラキラさせる。
「私もやってみる!」
と、加奈子も吹いてみる。
だが、案外難しい。
「え……、なんか全然凛奈と違う音なんだけど……」
「フリューゲルは難しいからねー。私もコツとかわかんないわ」
と、凛奈も首をかしげる。
すると、聖菜が、
「フリューゲルは、トランペット・トロンボーンと違って錐菅なの。トランペット・トロンボーンはまっすぐに音が伸びる直管で、コルネットとかフリューゲルとか、その他の金管楽器はほとんどが錐菅で、錐菅ってゆーのは、音がまっすぐじゃなくてとてもよく響くの。だから、息をしっかり入れないとだめ。ベルも下げないで」
と言って、加奈子の持つフリューゲルのベルをそっと上げた。
そして、加奈子はその体勢のまま吹いてみた。
すると、明るい響きを出した。
「すごっ! 聖菜、詳しいんだね!」
「え、うん。まあ」
と、凛奈が聖菜にフリューゲルを渡した。
「聖菜、やってよ。吹いたことあるんでしょ?」
「え、なんで……」
聖菜はびっくりしたように凛奈をみた。
「そんなに詳しいのに吹いたことないなんてありえないよ」
と、ニコッとした。
「……うん」
と言って、凛奈からフリューゲルを受け取った。
「ねぇ、なんか吹いてみてよ」
と、加奈子が言い、聖菜がコクっと頷いた。
そして、ゆったりとしたフレーズを吹き始めた。
『この曲……!』
そのフレーズは、To our glorious futureだった。
凛奈は、昨日の晩に聴いていたので、すぐにわかった。
誰よりも輝いた、プロのような音だった。




