悪口契約で僕が神様になった件⑧
その頃、舞子と翔は普段目にすることの無い本を読みながら平将門についての出生から伝説まで学んでいた。
「舞子・・・様、すこしよろしいでしょうか?」
「何、今いそがしいんだけど」
「ですよね。だがしかし、それでも聞きたいことが」
「何なの?」
「本によって、将門さまの記述内容が違うんですけど、どう解釈すれば」
「あんた、さまって・・・・もう怖いの。そりゃ、私も会って見たいかと言われると会いたくないかもしれない。どう接していいのか、正直分からないかな」
「そっちか。いや、機嫌損ねさせると、危険人物の匂いがするのですが」
「こういうときだけ、あんたは言葉遣いが、いじめられっこです!みたいな話し方になるから男らしくないのよ。男なら当たって砕けろでしょう」
「いやいや、当たる前に消し去られそうですが」
「まあそうだろうね。でも、あんたはあの剣を託されたんだからいつまでもそういう女々しい態度を取るのはやめてほしいところだけど」
「ああ、この剣か。俺には荷が重過ぎるというか、この剣があるから悪魔退治も出来ているようなものだし、これがなかったら俺はもうこの世にはいないだろうな」
「自分の力もないのにあんた自分の力を計算せずに使いすぎ。無害に近い魔物に見た目の怖さだけで全力でぶつかっていったときはさすがに止めたけど」
「あの時か。でも、自分なりには勇気を持って挑もうとしたんだけどな」
「弱いから見た目で遠ざけようとしている魔物もいるんだよ」
「人間にもそういう奴いるなあ。でも、見た目以上に強い魔物もいるんだけど、どう区別すればいいんだ」
「それだ」
舞子は何か閃いたようだ。
「それって?」
「勇人が言ってた言葉。退治した数がどうしたとか」
「あいつ人の苦労も気にせず」
「そうじゃなくて、今自分で言って気付いたけど、私も退治する悪魔は選別してきたけど、話したりすることはなく戦って、退治したり、時には逃げたり」
「舞子が逃げるって、相当やばい悪魔だったのか」
「いや、バイトの時間」
「はぁああああああああああああああああああああ、なるほど」
翔は大きなため息をついて、納得したようだ。
「あんた、どういう納得の仕方しているのよ」
「舞子が長時間掛けて苦戦したところ、見たこと無いなあと思って」
「気付いたら様が抜けている。まあそこはいいとして、今回は苦戦じゃ済まなかったと思うよ」
「今回?」
「いやもう前回か。八大龍王相手に勝てるわけがないし。あんたが私を呼びにきたときはどうしようとおもったけど、勇人とともに朽ち果てるならそれもいいかなと」
「乙女になりながら勇者のバランスも保たれているその発言には突っ込みの入れようも無い」
「そうでしょう、そうでしょう」
「俺はいつも準主役級の出番しかないし」
「いや、準主役でも脇役にもなれてないでしょう。サスペンス劇場なら、最初に死体で見つかって、番組の中盤くらいで見ている人の記憶から消えている人の類かな」
「なるほど、それで中盤におさらいのように最初の死体発見から改めて考えて見ましょうとか言って、俺はそんな役ではないし、中盤でおさらいが出てこない現実じゃ、記憶にも残らない役ということか」
「その乗り突っ込みはなかなかだわ」
「俺はお笑い芸人ではない。むしろデルモ、イケメン、モテメン、美少年」
「はい却下。デルモンテ、痛メン、木綿、微少年といったところ」
「うまい。じゃなくて、デルモンテとか木綿って人間でもないんですけど」
「ごめんごめん、デルモンテと木綿に悪かったわ」
「俺は一体どういう生物なんだろうか」
「一応、神様なんじゃない。その剣にしろ、選んだのはその剣の魂なんだからどこかに数ミリほど、男らしい何かを感じて選ばれたんじゃない」
「数ミリって、男らしさはそういう単位で表せるものなんだろうか」
「翔、あんたしっかりしなさい」
「いや舞子・・・様と話していると自信なくなってくるわ」
「それでいいのです。ランクの低い軟弱物は私にひれ伏すが良い」
「いや、それ魔物系のラスボスのセリフだから」
「そういえば、あんたもRPG好きだったんだよね」
「現実に英雄になれないからゲームの中で修行しているのだ」
「それならレベル1でラスボスに挑めるようになったということね」
舞子がニヤリとした。
「仕様的にそういうことは不可能だし」
「だよね。勇人でもそれは無理だし」
「あいつはどんな風にプレイしてた」
「今もしてる。3年掛けて1つのゲームのみ」
「俺強レベル上げして最強装備で挑む気かよ」
「ううん。ラスボスは何度も倒している。寧ろどれだけ低いレベルと可能な限り強い装備を手に入れて挑めるかそのルートを探してみたり、カジノゾーンでまったりしてみたり、意味不明にただ上空から世界を見下ろす散歩したり、後ろで見ていた私には意味不明な行動だったけど、今にして思えば、勇人らしい気もする」
「歴史オタにRPGオタかよ」
「オタというよりマイスターかも」
「マイスターもマスターも同じ同意語だから」
「あんたそういえば頭は良かったよね」
「頭だけでなく」
「はいはい、デルモンテ」
「イケメン」
「木綿」
「イケメン木綿ってなんだ」
「おいしそうな豆腐のネーミングになった。ただし腐女子限定商品」
「いや製品化とかそういうことじゃなくて。しかも腐をつけなくても女子受けしそうだろ」
「なるほど、それで行きましょう」
「舞子様、今新製品開発のお話ではございませんが」
「これは失礼軟弱者さん。こういう歴史の本は読んでいると眠くなってくるので少し休憩入れないと気付いたら寝てしまうのだよ」
「俺に既成事実を作ってもらおうということか」
「軟弱者、後ろを振り返ってごらんなさい」
「ごくり」
舞子のペットの魔物たちが翔を狙っている。
「この可愛いペットちゃんの餌になりたいということか、軟弱者」
「いえ、今のは言葉の流れで口にしてしまいました。申し訳ありません」
「分かれば良いのです。、分かれば」
「質問があるのですが?」
「はい、そこの軟弱者、どうぞ」
「どうやったら魔物がペットに」
「うちの家では子供の頃から家族同然に暮らしてるけど何か」
「どんな家だよ魔物をペットにしている家庭って」
「お父さんとお母さんの形見のような存在なんだけどね」
「より複雑になってきてる」
「あんたは家族大事にしなよ」
「ああ、それはもちろん」
「あと、将門さんじゃなさそうだね、今回の件」
「そうだな。将門様の存在が消えた理由は分からないし居場所も不明だけど、俺もそう思った」
「勇人は何で京都に行ったんだろうね」
「あいつのことだから居場所が分かりそうな神様の所にでも行ったんじゃないのか。俺はそういう場所には怖くて近づかないけどな」
「あんたは無害に近い悪魔も駆除してから上から評判悪いもんね」
「何度かやってしまったしなあ。でも、そのときにこの剣が舞い降りてきた」
「何か理由があるのよ。考えずに当たる前に消えて、その剣は舞子様がいただきます、フフフだよ」
「あの、すいません。今、邪悪な心の声が聞こえてきたのですが」
「邪悪じゃなくて純粋な心の声だけど」
「有無を言わさない神様の部類だな」
「何か言った?」
「いえ、何も」
「というわけ私は少し休憩するけど、後ろに護衛が控えているから、しっかりと将門さんについて勉強しておいて」
「分かりました」
そういうと、舞子は勇人のベッドで眠り始めた。
「この硬いベッドの感触久しぶり。お休みなさい」
「この後ろの怖い魔物が両親の形見だとか、あの歴史オタクのベッドが久しぶりとか、どういう人生を送ってきたんだよ、あいつは」
「軟弱者、何か、言った?」
「何も言ってません」
「それでよし。若者は勉学に励みなさい。スーフッ、スーフッ」
「本気で寝始めた。当たって砕けないやつの強みだな。勇人が帰ってきたら将門様の居場所も分かるという信頼感か」
その頃は勇人は京都 神田明神へと赴いていた。
「京の都にはいないは謎掛けだ。身体は東にあっても、魂はこちらに飛んできているはず」
勇人の前に大きな聖域が見える。
「これが将門さんの聖域。この地域全体を包み込んでいる」
「お前何故まだこの京に残っている」
「あなたがこの場所にいると思ったので」
「ワシに関わるな。京の守護に何とか食い止めてもらっている」
「僕にも何か手伝えることはありませんか?」
「お前のようなものに手出しできる問題ではない。相手は魔人だ。神にあらず、悪魔にあらず、人間にあらず」
「いずれこの京の封印も解かれてしまうということですよね」
「それを知ったところでお前に何か出来るわけでもない」
「敵わないかもしれませんが何かは出来ると思いますよ」
「安らかな眠りについていたワシを起こした相手だぞ」
「分かっています。今回の騒動の原因は南光坊天海さんですよね」
「どうしてわかった」
「貴船の主さんの謎掛けです」
「龍族相手に無傷とは大したものじゃ」
「戦っていません。これから先はそういう事もあるのかもしれませんがなるべく戦いたくありません」
「そういうわけにもいくまい。東の都はすでに天海の結界の中に入った。元々はワシを封じ込めておく結界が今度はその地域の生気を取り込んでいるのだ」
「しかし、向こうには大蛇さんや龍族の方もいるのに」
「天海を侮るな。ワシを封じ込める力を持つものに龍族を封じ込める知恵もないと言えるのか」
「一体何をする気なんでしょうか?」
「やっと少し真面目に考える表情を見せたな。そうでなくてはいかん。これから戦が始まるのだからな」
「あなたはここで閉じ篭っているのではないのですか?」
「新皇を名乗った将門、東の都の崩壊を見守る屈辱に耐えられん」
「何か良い案でもあるのですか?」
「そんなものはない。討つか討たれるかだ」
「それほどまでに東の都を愛されているのですね」
「その為に神田明神を伝い、こちらで力を蓄える為に京の都に来てしまったが、その間に東の都を自分の力に変える結界にするとは思いもしなかった」
「天海さんは現世にいるときから魔人のような活躍と権力を掌握したままで亡くなられていますからね」
「ワシに怨まれることを嫌って、自分の死後にワシを伝説にした歌舞伎や風刺画も出回るように影で指示していたのも天海だ」
「平家物語や源氏物語のように怨霊を鎮めるための方法ですね。しかしあの歌舞伎は将門さんの怒りを買うとしか思えない。五月姫が滝夜叉姫ですよ。自分が父親なら許せません」
「その通りだ。鎮めるどころかワシの怒りを買い、江戸周辺は大火や地震、犯罪、飢饉が蔓延した。自分のいなくなった東の都を焼き払えと言わんばかりに」
「なるほど。明治に入り、朝廷の判断で逆臣とされ祭神から外されたんですよね。しかし、朝廷は歴史の中で学んでいるはずなんですけどね、勢力が変わったんでしょうか?」
「それについては口にはせぬが、新しい時代の幕開けというのはワシも嫌いではなかった」
「祭神を外されても、地元の人たちには将門さんの神社」
「それよりもお前、東の都に行く気か」
「はい。大切な人たちがいるので」
「お前は本当にマスタークラスなのか」
「どうなんでしょうか?勝手に判断されたものなので良く分かりませんがそれでもマスタークラスのようです。そういう気持ちを持っていないと将門さんに会う勇気もありませんでした」
「お前はワシが怖いのにワシにわざわざ会いに来たのか」
「都合の良い話ですが将門さんの各地の起こしている噂を打ち消すことは出来ないし、将門さんが邪心化したという噂も信じたくはなかったので」
「お前は勘違いしておる。わしは半分邪神、半分守神といった存在だ。だからワシにはお前のようにクラス階級のない存在だ」
「龍族の方は5番目の階級以降に上がれないのと同じようなものですね」
「少し異なるが、似たようなものだ」
「そのイメージ、魔人なんですけど」
「そう言われてもしょうがない。貴船でも聞いたであろうがワシが怒り狂うとしたら自分で自分が止められぬ」
「龍族間の争いよりは小さなものですか?」
「それをそのまま貴船の主に問いかけてみるのだ。また笑われるぞ」
「何でその事を」
「あの場に居て見守っていた」
「気付いていませんでした」
「神の前に武士じゃ。己の気配を消すことなど容易いわ」
「場合によっては消されていたかもということですか」
「ワシは魔人ではない。奇特な人間の神がこちらに向ってきていると聞いて貴船に行ったのだ」
「だから、ここへ辿り着くことも予想されていたのですか」
「いや、主の言うことを素直に聞いて、東に帰るのかと思っていたがその読みは外れた」
「そろそろ帰らなければなりません」
「わしも帰らねばならぬ」
「仲間の神様は待機しているので自分の家に帰ってみます」
「結界の中では聖域の力も薄れる。気をつけて帰るのだ」
「将門さんはどこへ」
「それは言えぬが東の都を救うために乗り込んでみようと思っておる」
「お1人でですか?」
「そうだ」
「それはおやめください。まず自分と一緒に行動していただけませんか?聖域が2倍になると相手に居場所は分かりやすくなるかもしれませんが無闇に手出しも出来なくなるはずです。その間にいい知恵が出るかもしれません」
「おもしろい。自分を標的にし、聖域で周辺の民や生気を吸うことを邪魔するというのだな」
「結果的にはそうなりますね」
「分かったお前の案に乗ろう、新木勇人」
「もう驚きません。世界中に飛び交っているみたいですね、僕の名前」
「お前は本当におもしろい。お前のような奴が最後の時、傍にいてくれたらワシも怨むことなく、成仏できたのかもしれぬな」
「成仏はされていると思います。しかし、強制的に守護として役目を任されて魂を起こされたあとに、仕事が多すぎて帰れないだけじゃないのですか」
「ハハハハハッ。そうかもしれぬな」
「では、行きましょう」
「ワシは先に行くぞ。神田明神を伝い、すぐに辿り着ける。先に部屋で待っておる」
「分かりました。臆病者がいるのでくれずれも脅かしてください」
「そのイタズラ心も嫌いではない。くれぐれも少し脅かしておく」
「よろしくお願いします」
将門は自分の聖域に入り、神田明神を伝い、東の都に帰った。
勇人は自分の部屋に向い、飛び立っていく。
その光の筋の後ろにもう一つの光の筋が後を追ってきていたことに気付いていなかった。