悪口契約で僕が神様になった件⑥
「あれ、いつの間に俺は自分の部屋に」
勇人が気が付いたようだ。
「勇人、目が覚めたみたいだね」
「舞子、運んでくれたのか?」
「もちろん、お姫様だっこで運んでまいりましたよ、王子様」
勇人は恥ずかしそうにしている。
「お前なあ、それは男がするもんだろう、まったく」
「しかし、突然気を失うから驚いたよ」
「ああ、そうだったのか。その記憶がない」
「久々だったんじゃないの、一日であんなに頭も使って動いたのは」
「そうだと思う。正直、体がまだ少ししんどい」
「いきなり龍族の神社に行くってあんたどうかしてるよ」
舞子の口調が少し怒っていた。
「確かにそうかもしれないけど、歴史上の話で本当は龍族の神様も話し合いの出来る可能性もあるんじゃないかと思ったんだけど、早計だった。最初に出会った大蛇さんが話しやすかったから、その神社の主さんも話の出来る龍族なんじゃないかと思ってしまった」
「話しやすい前に大蛇を見て怯まなかった勇人がすごいわ」
「いや、最初は怯んだよ。やば、このタイミングで主に遭遇するとはと、焦ったよ」
「でも、どうして」
「それはその後、大蛇さんに頼まれたから。うちの王を助けてほしいと」
「それ、騙されてるとは思わなかったの?」
「うん、全然思わなかった。それに自分では気付かなかったけど、大蛇さんがあなたは全身が聖域で包まれているから龍族でも簡単には手出しは出来ないはずですと教えてくれたから」
「その聖域のことだけど、未だに私にも見えないんだけど、それは本当の話」
「舞子には見えないのか。実は俺にも見えない」
「まさか、大蛇さんの」
「嘘か」
その時、勇人の部屋の天井が輝き、そこから声が聞こえてきた。
(嘘ではない。その聖域は龍族と上位クラスの物にしか見えない。今回のお前の行動力には驚かされた。龍族の社が現世に蘇ったとなるとこの地域の守護はまた磐石に戻った。お前のマスタークラスとしての仕事はまだ始まったばかりだ。これからも精進するのだ)
そういうと、また天井の輝きは消え、元の部屋の明るさに戻った。
「勇人、今のはひょっとして夢で会ってた人?」
「多分」
「長い間、神の仕事をしているけど、あんなイベントに出会ったことないんだけど」
「お前はまったく神様らしくないからじゃないのか」
勇人から微笑みがこぼれてる。
「失礼な。どれだけの仕事の数こなしてきていると思うの」
「それ、勘違い男も同じような事言ってたな」
「それに仕事っていっても、人間社会と違って、神様の仕事はこなすっていう表現から間違っているんじゃないのか。俺の場合、今回初めての仕事だけど、こなすというよりは、失敗すれば自分は消滅かもしれなかったんだぞ。その前にそういう方向に行くとも想像してなかったけどな」
「レベル1でいきなりラスボスと遭遇して、対戦するようなものだったしね。しかし、ゲームだとしたらよく出来たシナリオだわ。主人公が先に大蛇イベントをクリアしていなかったらすぐにゲームオーバーだけど」
「勝手にお前の好きなRPGに例えて話すな。まあ、分かりやすいけど」
「でしょう、でしょう。しかし、ゲームじゃなく、現実にそれをクリアしてしまっているんだから、さすがに私の男に相応しいわ」
「俺は全力で断る」
「勇人は何でいつも断るの。遠慮しなくていいのに」
「それは男としてだな」
「うんうん」
「お前に守られても、俺がお前を守れる自信がないから」
「好きとから嫌いとかいう理由じゃなかったのか。良かった」
「それに幼馴染だから好きとか嫌いとかそういう感情を意識したことがないからなあ」
「私はずっと意識してたよ。あの時私を守ってくれたときから」
「いやいや、あの時も守りきれていないし、ボロボロだったし」
「小学生が社会人に立ち向かって行ったんだからあれは勇人の勝利だよ。あの行動で周りの大人たちが気付いてくれて、私は誘拐されずに済んだんだから」
「いや、お前の叫び声と文句のボリュームで大人たちが気付いたはずだけど」
「ううん。怖くて、声が出なかったの。でも、勇人が立ち向かってくれる姿を見て、自分も勇気が出たんだよ」
「そうだったのか。その話初めて聞いたわ」
「その話は初めてでも、私が毎年のようにあれから告白しているんだから気付きなさい」
「いや、だから、お前の場合、あれも毎年恒例のイベントだろ」
「勇人、今すぐ、襲われたい?既成事実を作ることも出来ますが」
舞子が勇人を睨みつけている。
「おいおい、だからお前は男か」
「今のは冗談だけど、それもありだね。結婚をしたくなったらその計画を実行しよう」
「舞子様、そういうのはせめて、男から」
「勇人がその気になる時が来るかな」
「まあ少なくても、気になる相手はいないし、俺のことを理解してくれる人間も少ないからなあ。恋愛というよりも結婚として考えると、お前かもしれないな」
「勇人、真面目な口調でプロポーズのようなセリフを言っていることに気付いてる?」
舞子が照れている。
「結婚となると、ずっと一緒にいて楽な方がいいじゃん」
「楽か。真剣に結婚を考えたことはなかったけど、そうなのかもしれないね」
「それに舞子が誰かと付き合ったり、結婚したら、俺も話し相手はいなくなる」
「私は茶のみ友達か」
「確かにそうだな。じいちゃんになったときに茶のみ友達もいないとなると寂しい人生だな」
「おいおい、18のあんたが老後を語るな」
「そう考えると今年のイベントは終わったが来年の俺の誕生日にお前が告白してくれたら、その時は真面目に考えることにする」
「結局、勇人の上から目線のセリフで最後を締められているんだけど」
「いや、本当に真面目に考える」
「うん」
「だが、しかし。来年まで俺が生きていることは出来るのかな」
「それは舞子様が付いているから大丈夫なのだ」
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いされました」
「この会話、やっぱり逆だよな」
「いいの、いいの、気にしない、気にしない」
舞子が上機嫌になっている。
そこへ光の筋が向ってくる。
「大変だ、舞子」
翔だった。
「大変なのは分かったけど、様が抜けている」
「そういうことを言っている場合じゃなくて」
「重要なことだけど。まっ、今日はいいことがあったから許す」
「こいつと何があったんだ?いい事って何?」
「あんたに話す義務はない。それよりも勇人の家にまで押しかけてきたということは緊急事態なんだよね?」
「いい事についてはあとでこいつから聞くとして、将門の復活が噂されている」
「それはないな」
勇人がはっきりとした口調で否定する。
「まだ何も言っていない。それに目撃談が多数ですでに神側に被害も出ている」
「それで被害が出ているとしてそれがどうして将門の仕業だと」
「影らしいものが見えたらしい。それから将門を祭りたてる神社から将門の気配がすべて消えている」
「誰かが盗みだしたとかじゃないの?」
「舞子、それもないよ。誰かの意志で動くような人じゃない」
「勇人、それならどういうことなのか分かるの」
「分かるというのが正確なのかはわからないけど、将門さんの魂って分散されているわけじゃないから」
「権力者がいう将門の結界は俺は存在しない派だから」
「それなら何故神側の慌てるこの事態をどう説明する」
「帰りたいんじゃないのかな。どこに帰りたいのかは分からないけど、分散されて生きている人間の守護をするのに疲れたとか。首とか体とかばらばらにされて、祀られていても自分が神様ならいい気はしない。どんなに大切にされたとしても。寧ろ、一つになる方が守護としての力も大きくなると思うんだけど。個人的見解だけどね。それに戻りたかったけど戻れなかったとしたら未だに京都に将門さんがいて、京都でこっそりと眠っている気はするんだよね。影武者のようなものに関東を守らせて。怨霊、怨霊とかいって、将門さんをそういう存在にしたり、おもしろおかしく騒ぎ立てる人間の方が俺は嫌いだし」
「それなら神側の被害をどう説明する?」
「今言ったとおり。神さまの仕事をしない神様もいるって聞いたけど、仮に本物の将門さんだったとして、関東の人間の行ないを守護したい神様がどれだけいるかってこと。それにもしも怨霊として将門さんが蘇ったのだったらそれもしょうがない。東京なんか、人口率も高いけど、夢が欲に変わったり、夢破れてそのマイナスの気が溜まりに溜まっている場所だし。それに夢叶っても、さらに次の欲が出てくるのが人間なわけで将門さんを怨霊に変える場所としては最適な場所だよね。将門さんだけでなく、怨霊として社に閉じ込められている人もいるけど、その社に参る人が減少したり、寧ろ自分の日頃の行ないを反省もせずに都合のいい願いだけ叶えてくださいって、神社のあり方を学んでいる人なら怖くて願掛けに来れないはずだけどね。妬みや恨みや都合のいい願いを聞いてくれる神社も存在するけど、その力もその神様には存在するためのエネルギーのようなものだと思うしね」
「勇人ごめん、何を言っているのか理解できない」
「良くは分からないが、何となくお前の言っていることは正しいかもしれないな」
「いろいろなタイプの神様がいるから、その神様に寄り添うことから考えないといけないのかなって」
「あんた龍族の件でそう思ったんだ」
「正解」
「なるほどなあ。しかし、神様の数が少ないのに、よりによって大物クラスの邪神化の報告が入ってくるとなると悪魔側が動いているとしか思えないな」
「そういえば、一つ聞きたい事があった」
「何?」
「神様の仕事をしている人間が存在しているということは、悪魔の仕事をしている人間も存在するということ」
「そうとも言えるし、そうとも言えない」
舞子が意味深な発言をする。
「悪魔の場合は憑依系ということか」
「勇人、さすがだね」
「だから、いつ、どこで、どんなことが起こるのか予測できない」
「それともう一つ。神様も憑依は出来るのか?」
「さっき勇人の言ったとおり。私はそういう方面に詳しくはないけど出来る神様もいると思う」
「なるほど」
勇人が考え込んでいる。
「あの、少しいいか。考え込んでいる暇があるなら探しに行かないか」
「将門さんがもしも本物だった時、龍族のようには行かないと思う」
「またお前が説得すればいいんじゃないの?」
「何故将門さんが怨霊として恐れられているのか勉強した方がいいぞ勘違い男」
「龍族よりもやっかいだったら俺は降りたほうがいいかもな」
「あんたが持ってきた話なのに降りるとか言うの?」
舞子が鋭い視線を送る。
「そういう視線じゃなくて、可愛らしい視線でお願いします」
「あんたにそういう視線を送る義務はない」
舞子がきっぱりと発言した。
「将門さんは神様に煽られて、力も貸してもらって、最後のその神様に裏切られたんだよ。裏切られたという表現は良くないのかもしれないけど、敢えてそう言いたい気持ちになるのが将門さん」
「新しい新皇を名乗って、戦いに負けて、怨霊になったということしか知らないわ」
「俺はそこまでも知らないが」
「そんな人たちが神様をやっているとは説明しなければいけない俺が疲れてくる」
「私の場合、家柄がそういう血脈だからしょうがないの」
「俺はヒーロー、いや、神様の鏡を目指している」
「あんたが神様の鏡なら私がすべて割ってやる」
「舞子、そういう鏡じゃないけど、そういう話じゃなくて。しかし、翔のいう案に乗っかってみるしかないか」
「ようやくイケメンの名前を呼んだな、歴史オタク」
「その呼び方は嫌いじゃない」
「嫌いじゃないのか」
「そういうことはどっちでもいいから、勇人、私は何をすればいい?」
「今回は3人で行動した方がいいと思う。まずは将門さん由縁の神社を巡るしかないかもしれない」
「関東にある神社はすべて見て回ってきたが社としての力がなくなっていた」
「ほかに変わったことや気付いたことは無かった」
「特になかったな」
「そうか。やっぱり二手に分かれよう。二人はまず将門さんの出生から最後までの歴史を学んでおいてくれ。俺はもう一度由縁の神社を巡ってくる」
「さっき、翔が何にも無いって言ったのに?」
「龍族の結界みたいに現世に存在しない空間があるかもしれない。それは多分上位クラスじゃないと見えないし入れない場所だと思うから調べてこようと思う」
「もし、そういう場所があったら勇人が危ないじゃん」
「いや、将門さんの場合は将門さんのことを知らないほうが危ないと思う」
「勇人がそういうならそうなんだろうね。でも、危なくなったらどうすればいい」
「携帯のGPSを生かしておくから、俺のいる場所を確認してくれればいい」
「分かった」
「でも、気になっている京都の神社から行ってみる」
「そういえば勇人、もう飛んでいるようになった?」
「まだ少し感覚慣れしないといけないけど、多分大丈夫。今日はうちの親帰ってこないから俺の部屋使ってくれていいから。これとこれとこれとこれが将門さんに関することが書かれている本だからしっかりと読んでおいてくれ」
「舞子と二人っきりか」
「軟弱者が死にたいというなら虐めてやるけど、将門さんの歴史を調べておかないと神様同士の戦いなら本当に消えることになるよ」
「そうだった。しかも怨霊と戦って勝てる気がしない」
「それなら一層勉学に励みなさい。レベル1で済むならいいけど、この世から消えたら家族が悲しむわよ」
「それは困るな。まずこれから読むか」
「それじゃ、行って来る」
「なるべく早く読んで、そっちに行くから」
「分かった」
「二人っきりの意味が無い」
「黙れ、私は来年には勇人の許嫁になる予定なんだから」
「妄想でお前も壊れたか」
「いや、約束してもらったんだ」
「そんな風には見えなかったけどな」
「まあ勇人は変わらないからね」
「お前もあいつも変わってるなあ」
「そんなに褒めてもらわなくても」
勇人は京都に向って飛び立った。
舞子と翔は平将門の歴史を学んでいる。
しかし、その間にも将門復活、邪神化といった情報が神々の間で広がっていた。