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【習作】意思なき剣は誰が為に

作者: 時藤 葉



――――いつからだろう、剣を振るうことに意味を見いだせなくなったのは。



 大上段から剣を振り下ろす、ただそれだけの行為を幾度と無く繰り返してきた。


 それは遠い昔に父から教わった、剣技とは到底言いがたい動き。

 決して剣技に長けてはいなかった父だからあまり難しいことは教えられなかったのか、それともこの行為に深い意味はあるのか。


 今となっては尋ねてみることすらできない。

 できることと言えば、この単純な動きをひたすらに磨き上げていくことだけだった。


 教わったと言っても、呼吸、体捌き、剣の握り方、何から何まで自らの手で磨き上げた。

 実際には動きを三度程度見せてもらった程度であり、加えてそれは父の顔を思い出すのも難しいほど昔のことなのだから仕方のないことだ。


 だからこそ、一心不乱にこの剣を振り続けてきた。

 そこに父の遺志はあるのだと、そう信じて。


 始めた当初はおぼつかなかった動きも、幾年も続ければ素人でも形にはなる。

 仮題だらけだった動きを常人の数十倍以上の年月をかけて磨いてきたその動きは、少し前に自分にはもはや何を直せば良いのかわからないほどに昇華されていた。


 そのせいだろうか、己の今までの人生の大半を費やしてきたその動きに意味が見いだせなくなったのは。


 鮮明とは言いがたい父の記憶と重ねあわせるようにして、この剣を振り続けてきた。

 言わば、この行為を磨きあげ続けることが父との繋がりだった。

 その繋がりが消えてしまったのが、己に課題を見つけられなくなったその時だった。


 父の動きと重ねあわせることができなくなったのは、自身のみで磨き抜ける限界までに達したのか。


 それとも、父の姿の記憶が、自身から消えてしまっただけなのか。


 森のなかで一人、ただ剣を振り続けてきただけの彼にはわからなかった。


 相談できる親も、大人も、友人も、彼にはいなかったのだから。


 己の中に眠る父の記憶を掘り返しても、記憶上の父は何も答えてくれない。

 唯一父が遺した、手に握っている古ぼけたこの剣は何も答えてくれはしない。


 己の行為に意味は見いだせず、さりとて今更やめるには続けすぎた行為。


 その行為に、その剣に、長年振り続けてきた剣に対する意思はもはやなかった。




――――だが彼が再び剣に意思を持つことができるようになるのは、彼の剣に意思を与える少年が現れるのは、そう遠くない未来のことだ。




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