表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18禁をこの手に  作者: 昼熊


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/21

十五話

「キヌ! 対戦相手となにいちゃついてるの! 試合中でしょ」


 怒鳴り声を上げる小さな物体が、俺と絹の間に割り込んできた。


樫美亜かしみあお姉ちゃん……」


「ほんっと、あんたは惚れやすいわね! 自分に対する好意には疎いくせに、ちょっと優しくされただけで惚れるんじゃないわよ!」


 見た目も声も幼いのに、言っていることは年長者としての意見だ。姉というよりは、お母さんっぽい口調だな。

 絹が怒られて小さくなっている。絹の方が体は大人なのに、この子――あ、この人の方が姉なのか。さすがお姉さんと言うべきか、姉としての貫録がある。


「あんたも、対戦相手口説いてんじゃないわよ! 真面目に戦いなさい!」


 相手は声を荒げて文句を言っているというのに、何故だか不快感が殆どない。決してマゾではないのだが、見た目の幼さとのギャップでこれはこれで、ありな気になってくる。


「生成、またな!」


 元気に手を振る姿に、こちらも小さく手を振り返しておく。


「なかなか、良い子だな。うんうん」


「とても楽しそうね」


「そりゃ、スタイル抜群で元気っ子。年齢も近そうだし、素直で可愛いときている。一緒に話して楽しくないわけがない!」


 うちのクラスの女子どもの、お手本になって欲しいぐらいだ。久しぶりに、癒し系の女性に出会ったなぁ。


「しまった! 電話番号……せめてメアドの交換ぐらいはできる流れだった!」


「試合終ってから好きなだけやれや」


「ソウデスネ、帽子サン」


 背後に立つ人物には初めから気づいていたが、振り返るのも恐ろしいので、前を向いたままで会話をすることを選ぶ。


「てか、なんで彷徨える帽子がここにいるんだ。そっちの戦績は?」


「奪われた」


 予想外の言葉に、思わず振り返る。彷徨える帽子は大きく息を吐き、力の抜けた両腕をぶらぶらさせ、見るからに落ち込んでいる。


「相手が見つけたのを確認してジャック眼を発動させて、視界を完全に奪い相手は盲目状態になった確信はあった。それなのに、何のためらいもなく作品を手に取った。あの長女も何らかの《Sデザイア》が使える可能性が高い」


 二人の戦いに決着がついたから、長女はこっちにやってきたのか。おそらく、彼女の言う通り長女は《Sデザイア》が使えるはずだ。

 根拠はある。彷徨える帽子の《Sデザイア》は情報収集能力には長けているが、直接の奪い合いには向いていない能力だと言える。相手の視界を共有する場合には時間の制限もないが、視界を奪うとなると十秒が限界。それでも相手が普通の人なら、それだけの時間があれば確実に彼女が勝つだろう。

 だが《Sデザイア》を持つもの同士の戦いとなると、話は別だ。彼女は、俺や雑食紳士には一対一では絶対に勝てない。俺の賢者モードには能力自体が通用しないし、雑食紳士は視界を奪われたところで、紳士ゾーンを発動してしまえば、狙いの品に相手が近づくことすらできない。

 能力の相性にもよるだろうが、普通の一般人では手も足もでない力でも《Sデザイア》持ちとなれば、彷徨える帽子に勝ったのも頷ける。

 戦った三女には能力を使った形跡は全くなかった。長女だけが能力持ちとなると、彼女だけの力でのし上がってきた可能性もある。もしくは指令系の能力を持っていて、姉妹とのコンビネーションで戦ってきたか。

 予想の答え合わせは、雑食紳士と戦っている次女次第だが。


「速射王は、あの女とじゃれていた割には、ちゃんと作品は勝ち取ったのだな」


 ……あ、そういや作品を棚に入れると言って、受け取ったままだ。今更返すわけにもいかないか。悪いがこれは戦利品として貰っておくよ。


「おや、速射王様も手に入れましたか。これで二対一ですね」


 深く考えすぎていて、雑食紳士が声を出すまで、近くにいたのを全く気付いていなかった。

 【一週間マジックミラーハウス生活】は雑食紳士が手に入れた。となると、長女に奪われたのは【精女子学園7】か。できれば三作品とも手に入れて、四品目を待たずに勝利を確定しておきたかったのだが、それは贅沢な望みだったようだ。


「相手はどうだった? 苦戦したのか」


「それがですね。相手にならなかったと申しますか……戦いそっちのけで妙な動きをしていましたから」


 雑食紳士は眉根を寄せ、渋い顔している。指定品を奪えたというのに、どうも戦いの内容に納得がいってないようだ。


「妙な動きって、いったい何を?」


「いえ、途中までは普通に探していたのですが、突然「目がー」と叫びだし――」


『みなさーん。まずは三作品を見つけられたようですね。第四地区代表は二品。第七地区代表は一品ですね。第七地区ピンチですよ!』


 突如響き渡る放送に、雑食紳士の話が遮られた。話の続きは気になるが、放送を聞き逃すわけにはいかない。


『ですが、まだまだ逆転のチャンスはありますよー。では、お待ちかねの最終指定品は……【左脳はビッチ】』


 その題名に、さっきまで調べた作品の中には見覚えはない――とは言い切れない。頭文字だけで判断していたのが、ここにきて足を引っ張るとは。だが、相手を見る限り総合的な能力はこちらが優れている。悩んでいる時間が惜しい。三人と軽く相談して散らばるか。


『とー、【カミさんはサウスポー】になりまーす』


 ……えっ? 

 予想外過ぎる二品目の発表に、思考が飛んだ。雑食紳士も彷徨える帽子も意表をつかれたようで、口をぽかーんと開いてる。


『もしかして、何で二つもあるんだと思っていませんかー? じ、つ、は、今回からルールの変更がありまして、せっかくの団体戦なのだから、団体戦らしいシステムにしようぜっ! というノリで変更されましたー。ごめーんね』


 謝る気などさらさらない、暢気な声に神経が逆なでされる。


「おい、話が違うだろ! こっちは前からのルールをふまえて作戦を練っているんだ! 責任者出てこい!」


 彷徨える帽子がスピーカに向かって罵声を浴びせている。


「気持ちは分かるけど、落ち着いて。怒ったところで話を聞いてくれるような奴らじゃないだろ。どうどう」


 興奮状態の馬を落ち着かせるかのように、彼女の背中を軽くさする。

 三姉妹の方を見てみると、彼女たちも納得がいかないようで文句を言っている。特に長女がお怒りのようだ。どうみても外見が中学生以下のロリ顔だというのに、中指を立てている姿が様になっているのが不思議だ。


『怒っちゃやーよ。私が決めたんじゃないんだから、文句を言われたところで、どうしようもないんだけどね。てへっ』


 聞いている者を不快にさせるのが、お上手なことで。わざとやっているのは理解しているのだが、それでもイラッとくる。


『よーしお姉さん逆境にも負けずに説明始めちゃうよー。まず、何で二つもあるのかというと、一つを守って、一つを奪ってほしいからでーす。では、でてこいやー』


 どこかで聞いたことのあるフレーズだが、そこは今触れるべきポイントではないのだろう。

 司会者の掛け声に合わせて、地面が振動し始める。微かに揺れを感じる程度だったのだが、次第に揺れは大きくなり、今は立っているのも辛い


「おおおっ、な、なんだ?」


「これは、一体……」


 雑食紳士が彷徨える帽子を支えて、何とか倒れずに済んでいる。俺は支えてくれる人もいないので、壁際の棚に手を置いて耐えるしかなかった。

 今、俺たち三名は入り口から見て、右側の壁を背に立っているのだが、二メートル程前にある地面の一部がゆっくりとスライドしていく。床が移動し終えると、そこには一メートル四方の穴が開いていた。

 その穴から徐々に何かが、せり上がってくる。その物体はどうやら、白い大理石でできた四角柱のようで、腰のあたりまで伸びると振動も治まり、石柱も動きを止めた。

 そして、その石柱の上には【左脳はビッチ】と表紙に印刷された、レンタル品がある。


『みなさーん。自分たちの前にある作品を確認できましたかー? それを貴方たちが死守しなければならない、カワイ子ちゃんとなりまーす。それが相手に奪われたら、そこで終了となりますから要注意ですよ!』


 顔を上げて確認してみるが、やはり、三姉妹の前にも同様に石柱が現れている。


『要はー、それを守りながら、相手の指定品を奪えば勝ちでーす。みんな、分かったかな。じゃあラストバトル、レディー……ゴーッ!』


 驚きもここまで続くと冷静にもなれるってものだ。素早く考えを巡らし、二人に指示を出す。


「雑食紳士の能力は防衛向きなので、ここでそれを守って。俺は敵にアタックをかけてみるから、帽子は俺が相手に近づいたら敵の視界を完全に奪って」


「わ、分かった。だが、視界を奪えるのは一人だけだぞ」


「じゃあ、作品の前で守っているレンタランカーで頼む」


 策と呼べるようなものではないが、向こうもこの状況に戸惑っているはず。ここは先に動いた方が有利になる。相手の体制が整わないうちに一気に決めよう。

 獲物に狙いを定め、敵陣に向かい飛び出す。相手も俺の姿を見て冷静さを取り戻したようで、三女がこちらに向かい走り込んできた。

 だが、俺と争う気はないようで、走る速度を落とすことなく、すぐ脇ををすり抜けていく。油断をせずに相手の動きを横目で確認すると、三女の絹と視線が交差した。


「終わったら、ゆっくり話そうな!」


 満面の笑みと、その言葉を残し、彼女は走り去っていった。

 あの魅力あふれる笑みと、引き締まりながらもボリューム感あふれる後ろ姿に、後を追いかけたくなったが、何とか理性で抑え込み思いとどまる。


「戦場には甘い誘惑が多すぎる……ふっ、男は辛いな」


 心の葛藤があまりに情けなかったので、独り言で格好をつけてみた――虚しさが極まっただけだった。

 馬鹿な事をやっている間に、対象の指定作品まであと少しの距離に到達した。目の前には石柱を守る合法ロリ――長女がいる。名前は確かカトレアと呼ばれていた。名前の字は漢字なのかカタカナなのかも不明なので、長女でいいか。

 少し離れた後方に、次女もいるな。落ち着いた様子でそこに立っている姿は、妹だというのに、まるで保護者が我が子を見守っているかのようだ。


「ほぅ、あんたが相手か。一人で来たということは、何かしらの力があるのかな」


 長女の口ぶりから察するに、《Sデザイア》を知っていると考えて間違いなさそうだ。となると相手も能力者と考えるべきだろう。どんな能力があるにしろ先手必勝!

 俺は走る速度を落とすことなく、軽く右手を挙げた。

 この合図を理解した彷徨える帽子が、ジャック眼を発動して視界を奪ってくれるはず。


「おっ、これは、またあの子の能力か。私には効かなかったのを理解できなかったのかい」


 一瞬だが相手の体が赤く輝いた――と同時に俺の視界は闇を映し出す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ