十三話
「では早速、第一回戦始めましょうか!」
トーナメント票がすべて埋まり、チームごとに対戦相手の確認と相談を始めようとした矢先に、司会者がふざけたことを言い出した。
「おい、ちょっと待てよ! いきなり始めるのか! 去年は一日おいてからだったろ!」
見た目のいかつい男が、司会者に対して怒鳴りつけている。話し方は語気が荒く口も悪いが、話の内容は同意する。雑食紳士から事前に受けた説明と違う。
「あはは、過去にこだわっている男はモテませんよ?」
ひるむこともなく、笑って対応している。肝の据わった人だな。
「今年からの新しい決まり事ですので、従ってくださーい」
納得のいかない連中が近くのAC職員を捕まえて、ぶつぶつと文句を言っているが、適当に相槌を打つだけで、聞く耳を持たない。
「はーい、聞き分けの悪い子は嫌いですよ、ぷんぷん。では、泣こうが叫ぼうが十分後に戦闘を開始しますので、A-1、2とB-1、2は各戦場に向かってくださいね」
何を言っても無駄なようなので、二人を連れて指定された戦場へ向かう。どうやら、このAC内には戦場が二ヶ所あるらしく、A、B同時進行で進めるらしい。
作戦を立てるにしろ、まずは戦場に着いておかないと。開始時間に間に合わずに、不戦敗にでもなったら、情けな過ぎて泣くに泣けない。
近くの階段を一階上がった先にあったので、思ったより近く時間も一分程度しか過ぎていない。今からでも簡単な作戦の相談や情報収集ぐらいはいけるはずだ。
対戦相手三名も少し遅れてたどり着いたようで、こちらと同じように集まって話し合いをしている。
「急な展開だが、それは相手も同じこと。ここは、先に体勢を整えた方が勝利に近づくはずだ」
彷徨える帽子に焦りは無いように見える。いや、つばの大きな帽子のせいで、表情は見えないんだけどね。
「その通りです。ここは、まず情報確認と行きましょう。対戦相手は見ての通り女性三人組です」
驚いたことに代表者だけが女性だったのではなく、メンバーの全員が女性なのだ。ACは男性専用という認識があるが、男性だけに利用する権利があるわけではない。むっちゃんも参加できるように、女性が利用しても全く問題はない。
ただ、全国に名前や性癖がバレてしまうため、女性の利用者は極わずかとなっている。実際、ACの戦いに三度参加しているが、女性らしき姿を確認したのはむっちゃんこと彷徨える帽子を除けば、二人しかない。
「それも、今ネットで調べているのですが、あの三名、姉妹のようですよ」
雑食紳士が携帯を駆使して情報を集めてくれている。時間がないので、詳しくは調べられないだろうが、少しでも情報があるのとないのでは、天と地の差がある。
ただでさえ珍しい女性参加者だというのに、それだけではなく三姉妹なのか。言われてみれば、顔にどこかしら共通点があるような。
「しかし、敵は見事なラインナップですね」
対戦相手を見つめ、雑食紳士が感嘆のため息を吐く。確かに、姉妹は三者三様の魅力に溢れている。
まず一人目。他の女生徒比べて頭二つ分、身長が低い人がいる。髪型は黒髪を左右二つに分けた、ツインテール。赤いリボンの髪留めをしている。
服装はサイズが一回り大きい学生服のようで、袖から指先しか見えない。顔は色白で幼く見える――中学生にしか見えないのだが、いや、小学生でも通用しそうだ。確か、ここは18歳以上限定だったよな。いいのか、あの子。
「あの、一番背の低い方は……信じられませんが、三姉妹の長女らしいです」
なん……だと。あの女性が長女。ということは、少なく見積もっても二十歳は軽く超えているのか。あれが、合法ロリというやつかっ!
ということは、あの学生服も自分の幼さを際立たせるための衣装なのか。見た目に反して、なかなかの策士らしい。
「その隣のショートカットの女性が末っ子のようですね」
茶髪のショートカットが良く似合う、健康的な女性がいる。長女と全てが対照的で女性にしては背も高く、肌は小麦色に焼けている。
上半身は両腕がむきだしの丈の短いタンクトップで、へそも丸だしになっている。下は極ミニスカートと見間違えそうな、かなり短いホットパンツ。
「こ、これがまさに健康美というものですね」
体育会系の魅力が凝縮された女性だ。襟元も大きく開いている為、結構豊かな胸元の割れ目がちらちら見える。室内は暖かいとはいえ、真冬にする格好ではない。狙ってやっているのは、重々承知しているのだが――いかん。胸、へそ、太もも露出の三連続攻撃に目が逸らせない。
「そして、最後の方が次女のようです。くじ引きで代表者だった方ですね」
長いストレートの黒髪に、黒縁のメガネ。下は地味目のロングスカート。上半身は体に密着した袖の長い薄手の服装なので、体型が際立つ。
そう、三女よりも破壊力が上回っている、ど迫力の胸元がその服装のせいで、やたらと目立つのだ。
「それだけではありませんよ、生成様。あの女性、かなりの強者です」
こちらの視線に気づいたらしく、視線の先が何を捕らえているのか理解したうえで、嫌な顔一つせず微笑み会釈した。計算された対応なのだろうが、惚れてしまいそうだ。
この人は性に関して無防備で、天然系であるがゆえに胸が強調されるような服を着てしまっても気づいていない、お嬢様なのではないか? という都合のいい妄想をしてしまう。
正直、もう試合そっちのけで眺めていたい。
ただでさえ、その胸部から発せられる魔房の威力に打ちのめされそうだというのに、彼女は更に畳み掛けてきた。
床に置いていた肩掛けカバンを手に取ると、たすき掛けにしたのだ。それによりカバンのベルトが斜めに胸の谷間に沿って抑え付け、更に胸部が強調される。
「これほど大迫力のパイスラッシュを生で見られるとは!」
「ああ、生きていて良かった!」
雑食紳士と暑い握手を交わす。彼と心が完全に通じ合った気がする。
「おい、カスども」
その言葉には冷気が宿っていた。耳にしたものの熱気を瞬間冷却してしまうほどの、冷たい声だった。
「こっち、みろ」
呼ばれたからには振り返らなければならない。
だが、俺の生存本能が拒絶している。振り返ってはならないと、危険信号を全身へと届けている。ここは、年の功だ。代表して雑食紳士に振り返ってもらおう。
――雑食紳士が目を逸らした。冷静を装ってはいるが、頬を汗が伝っている。心が冷え切っているのに汗が出るなんて不思議だね!
「雑食さん、主が呼んでますよ」
「年を取ると耳が遠くなってしまって、いやはや、年は取りたくないものですな」
「そうなんですか。うちの祖父も聞き取りづらくなってきたらしく、最近補聴器をつけているんですよ」
「私もそろそろ必要かもしれませんね。おススメの補聴器があれば是非、教えて頂きたいです」
よし、このまま関係のない話の流れに持っていき、開幕の時間まで時を稼ごう!
――等という姑息なたくらみなど通用するわけもなく、左肩に手が置かれた。その手は華奢な手だというのに、力を入れた指先が肩にめり込んでいる。
雑食紳士の右肩にも、同様に手が置かれている。そして、顔を見合わせている状態である二人の視界に、大きな帽子が割り込んできた。
「今は大事な作戦会議中……だったよな」
「そ、そ、そうですね」
「そ、その通りで、ございます」
大きな帽子が上下に揺れる。どうやら、頷いていらっしゃるようだ。
「でだ、そんな貴重な時間を何に消費しているのかな」
「己を知り、相手を知らば百戦危うからずと申します。敵の情報集めに専念しておりました」
さすが、雑食紳士。言い訳としては素晴らしいレベルの切り返しではないだろうか。俺もこういう対応が咄嗟にできる大人になりたい。
「で、どんな情報が集まったのかな」
「はっきりと分かったことは……巨乳は正義!」
あ、ダメだこの大人。
拳を振り上げて熱弁している雑食紳士を、冷気に殺気を上乗せした視線が突き刺さっている。放出元は、言うまでも無く彷徨える帽子だ。
「給料五割カット」
「それはご勘弁おぉぉぉぉ!」
いい年こいた大人の叫びが、AC内に虚しく響いた。
『Bコーナーの皆さん、準備はOKですかー』
もう少し早いタイミングで放送を入れてほしかった。能天気な声で話す司会者に八つ当たりしてもしょうがないのだが。
『では、県大会のルールを復習しておきましょうー』
そうだ、県大会は地区戦とはルールが異なるのだった。今の流れで完全に頭から消え失せていたが、切り替えていかないと。
『まず、この戦いで狙っていただく品は、こちらから指定した作品で、両チーム共通となります。先に取った者勝ちというわけです。そして、県大会は三品ではなく四品指定させていただきます。四品目は三品が全て手に取られた後に発表となりますので、ご注意ください』
地区戦とは違い、かなりのルール変更となるため対応策を考えておかなければならない。
『得点は初めの三作品は一点。最後の四作品目だけ二点となりまーす。そして、最大のルール変更は、県大会は基本何でもありなんだけど、最低限のルールとして相手を死傷させる行為は禁止となってまーす。みんな要チェックだぞ』
話には聞いていたが本当にそうなのか。今までの戦いでは相手に触れるだけでも反則行為だったというのに、怪我さえさせなければ掴んでも、背後から抱きしめても反則にはならない。
そう、偶然ぶつかって胸元に不可抗力で手がいってしまい、間違いで手を握ったり開いたりしても、反則にはならず、後で罪には咎められることもない!
「故意にやったとしても、反則ではありませんよ」
「……まさか、声に出てた?」
雑食紳士は黙って頷くと、隣を見るように視線だけでうながした。その視線の先に目をやると、半眼で睨みつけている彷徨える帽子と目が合った。
「足を引っ張らないのであれば、好きにすればいいが……全国にネット放送されていなくても、参加者やAC事業部関係者たちには見られていることを忘れないことだな」
――肝に銘じておきます。
『では、試合開始の時間ですよー。あーそうだ、忘れてたー。指定三作品の発表しますね。順不同で、ぱぱっと言っちゃいますよ。【精女子学園7】【SとMの狭間で】【一週間マジックミラーハウス生活】の三品となってます。これ考えた人も撮影した人も何考えているんでしょうねー』
いや、あんたも一応関係者だろ。アダルト作品の監修もAC事業部の仕事だろうに。まあ、部署は全く違うのだろうけど。
『えっちなのは良くないと思いますっ! と、かまととぶってみましたが、作品検閲の仕事も進んでやる私に死角はなかった! 世の中に出回るのを禁止された過激すぎる内容の作品も観たことあるんだぞー。羨ましいかっ。も、ち、ろ、ん、無修正バージョン!』
正直とても羨ましいです!
「俺、大きくなったらACで働くんだ……」
「進路決まって良かったですね」
「死ねばいいのに」
俺の呟きに対する反応が両極端すぎる。
『あ、痛っ。分かりました、やります、やります! 真面目にやりますから! ごほんっ、失礼しました。では、県大会第一戦始めます!』
急に真面目ぶった声になり、開戦の言葉と同時に目の前の自動扉が開いていく。
「じゃあ、行こうかみんな!」
初めての県大会が今、幕を上げる。




