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18禁をこの手に  作者: 昼熊


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一話

 ここは引くべきか。いや、あえて強引に突破する方が妥当なのか。時間はまだある。様子を見るのが賢明なのかもしれない。

 この空間の流れを感じろ。五感全て――いや、六感も目覚めさせろ。己の能力をすべて出し切れ。相手を観察しろ。気配を察しろ。

 この戦場では一瞬の迷いが命取りとなる。神経を研ぎ澄ましターゲットを手に入れる事だけに意識を集中するんだ。







「ありがとうございましたー」


 背後から聞こえる声に俺は右手を軽く上げ、職員への返答へとする。

 建物の外に出た俺は懐に抱えた青い袋を、黒の背負い袋の中へと入れた。


「さて、早く帰るとするか」


 暴走しそうになる欲望を抑え込み、ペダルに力を込める。俺がさっき出たばかりの建物が遠ざかっていく。長い上り坂を登り切り背後へ振り返る。あの戦いを思い出し、小さくなった戦場、ACアダルトコーナーへ軽く頭を下げた。


「また、三か月後に会おう!」


 激しい戦いの後に待つ癒しの時間を想像し、緩む口元を手で隠した。







 我が家へ着くと、


「ただいまー」


 いつもより大きめな声で、姿の見えない家族へ声をかける。返事はない。知ってはいたが、確認の為にもう一度さっきよりも大きな声で帰宅を告げる。


「返事はないな。よっし」


 靴を脱ぎ捨て、玄関に置かれている他の靴が無いかもチェックしておく。細かい確認がフィーバータイムの楽しみ方にも影響してくる。

 二階へと駆け上がり、自分の部屋へと滑り込む。耳を澄ましてみるが階下からも隣の部屋からも音は聞こえない。今、この家には俺以外誰もいないのは、間違いないだろう。素早く後ろ手で、鍵を閉める。


「窓よし! 鍵よし! 携帯の電源オフ!」


 背負い袋を床に下ろし、中から青い袋を取りだす。その袋に手を入れ、戦利品を三つ抜出しガラス張りの机上に並べた。

 まず一つ目、文庫本より少し大きめのプラスチックケースには、少し照れたように微笑むブレザーの制服を着た少女が写っている。撮影場所は学校の教室か。バックには学校にある既製品の机や椅子が並べられている。

 もっと眺めていたいが、まずは優先順位を決めなければならない。

 後ろ髪を引っ張られすぎて地面に引き倒される思いだが、時間は有り余っている。焦る必要はないさ。胸中で暴れまわる獰猛な野獣を抑え込み、次の宝物に視線を移動する。


 一つ目と同じケースに入れられたそれの表面に印刷されているのは、体に密着したピンクのナース服を着て、茶色い縁のメガネを掛けた女性だ。舌をちょろっと出し潤んだ瞳がなまめかしい。

 内容はまだ確認していないが、自分の判断が間違ってないことを確信した。これよりも欲しい物があったが、少しマニアック過ぎると躊躇していたので、結果論で言えばこれで良かったのかもしれない。

 残りは、最後の宝か。これは前の二つとは少し異なるアイテムになる。ここまでの二作品は動画作品だが、ラスト一つはそうではない。

 それは、一冊の漫画雑誌だった。週刊少年漫画誌と同じぐらいの紙面でありながら、分厚さは三倍以上ある。

 中に描かれている内容は様々で、学生、人妻、教師、プール等、絵柄も状況もすべて異なる漫画が掲載されている。多くの人は漫画よりも動画を手に入れようと躍起になるので、雑誌方面は比較的手に入れやすい。今回の戦いは、まさに狙い通りだった。


 ジュニア部門を卒業して初のアダルト戦場デビューだったが、初陣としては満足のいく結果と言える。三か月に一回しか与えられないチャンスを、生かし切ったといっても過言ではないだろう。ただ、目をつけていたあの作品には未練がある。こちらの指定作品ではなかったが、減点を覚悟しても欲しい一品だった。また三か月後の戦いで手に入れればいいだけの話。焦らしプレイも悪くない。

 まずは、動画作品から手を出すべきだな。ヘッドフォンがあるとはいえ音漏れの心配もある。家族がいないこの勝機を逃すわけにはいかない。雑誌は夜中にでもそっと楽しめばいい。

 となると、この二作品のどちらかを選ぶかだが……ここは、ストレートに学校物で勝負をかけよう。


 壁際に転がっていたテレビのリモコンを拾い、テレビのスイッチを入れる。

 ワイドショーが流れていたが興味もないので、迷いなく入力切替のボタンを押す寸前に、テレビ画面にとある人物の顔がアップで映った。四十代の落ち着いた大人の女性がそこにいた。顔は美人といっても差し支えは無いだろう。気の強さと自信が態度から見て取れる。


「うわ、観方みかた 音菜おとなだ」


 女性総理の姿を見るだけで、自然と顔が歪んでいくのを自覚する。

 この国初の女性総理大臣であり、多くの女性から圧倒的な支持を受け、多くの男性から恨まれている女性。

 俺も、もちろん恨んでいる。俺の世代はこの総理大臣を嫌っている。大人たちは建前上、口に出して批判する人は少ない。特に女性の前で観方首相の批判をする男性はいない。

 観方首相は圧倒的な支持率で、とある法案を通した。それを評価し、稀代の英雄と呼ぶ声もあるぐらいだ――主に女性からだが。

 俺としては迷惑千万で余計な事をしてくれた人としか認識していない。


「昔は良かった」


 一部の大人たちはことあるごとに呟いている。自分たちが知らない自由があった夢のような世界。大人の話を聞くたびに、その信じられない過去に羨望の想いを抱く。

 何でこんな社会になってしまったのだろうか――性表現が激しく規制された、こんな社会に。






 

 俺が何とか言葉を話せるようになったガキの頃、日本は転換期を迎える。

 不景気が続く中、未曽有の大災害が日本を襲った。それでも、国民は懸命に生き何とか日本を立て直していた。驚くほどの復興スピードは、他国の人々に日本の国民性、勤勉、秩序、忍耐を見せつける出来事となる。

 外国からは諦めることのない国民だと称賛されていたが、人々はあることに関しては絶望し、呆れ果てていた。それは政治家に対しての不信感。

 国が亡びる恐れがある大事な時期に自分たちの身を守るだけの政策や、手際の悪さを露見させ、人々は政治家への期待が失せていく。そんな時代に台頭した一つの政党があった。


 その名を【女性革命党】という。

 女性革命党は議員の大半が女性であり、党首も女性であった。

 女性目線を売りにした女性革命党は、政治家に失望した国民の心理をつく訴えを続け、マスコミも話題性を見込んで連日、女性革命党を持ち上げる内容の報道を続けていた。女性議員の多くが標準以上の容姿だったのも、大きな勝因の一つだろう。

 その結果、票を伸ばし見事、衆参両院で過半数を超える第一党となる。

 初めの一年は経済の無駄や権力や組織とのしがらみを排除する政治を徹底して行い、国民からの支持率も九割を超え、戦後最も支持された政権となる。

 父によると、ここまでは男女ともに支持される素晴らしい政党だったそうだ。


 ――そう、二年目を迎え、ある法案を国会に提出するまでは。

 その法案とは、この現状を生み出した悪法【性規制法】である。

 性に関する事柄を厳しく取り締まる法案で、今までなら、売春は売る方が未成年であった場合、厳しく罰せられることは無かったが、売る方も買う方も同じ罪があると定められ同様の罪を問われるようになった。

 売春に関しては批判の声も少なく、むしろ評価された内容だったのだが、それだけには止まらなかった。あらゆる性に対して取り締まりが厳しくなったのだ。

 性風俗、アダルトビデオ、雑誌、18歳未満購入不可のあらゆる商品を年齢にかかわらず販売購入禁止。過去に購入した物を所持しているだけでも罪を問われることとなり、違反した者は厳罰に処される。

 父を含めた多くの男性は、こんな馬鹿な法案は絶対に国会の審議を通過することは無いだろうと高をくくっていたのだが、実際はすんなりと通ってしまった。

国会中継で流れていた映像には顔色の悪い男性議員が多く映っており、何かしらの裏取引があったのではないかと、まことしやかに囁かれていたそうだ。

 多くの男性陣から不満の声は上がったが、それに対し女性総理である観方音菜は、


「性を取り締まることにより、少子化対策にもなるのです。これは性行為や恋愛を禁じるものではありません。皆さんは積極的にパートナーを探してください。もちろん、その際、出産、育児についての社会的支援を充実させることを、お約束します!」


 実際、この年から子供を持つ家庭への社会保障が充実され、二年後には出生率が急激に上昇する。

 それでも、多くの男性とアダルト業界関係者から反発の声が上がったが、内容が内容だけに表立って批判をするには……躊躇うものが多く、あらゆる意味での勇気が必要だった。一度大規模のデモが行われたのだが、参加者の顔や姿がテレビで放映され、違法行為で捕まった代表者たちの顔と氏名が全国に知れ渡ることとなる。

 この事件を機に表舞台では声を潜め、匿名性のあるネットでの批判が広がりを見せ始める。それに対し、政府はある声明を発表した。


「この規制には現実の女性を対象にしたものであり、絵や文章、俗に言う二次元は含まれません」


 これを聞いたネット住民の多くはこう考えた。


(三次元が規制されることにより、二次元が盛況になるのでは! エロマンガや同人、アニメのクオリティーが上がるのは間違いない!)


 そんな都合のいい考えが某ネット掲示板では主流となり、反対意見を塗りつぶすほどの賛同を得ることができた。ネット住民曰く、今思えば裏で工作していた節があるそうだ。

 それから二次元は、エロに関して絶頂期を迎えることとなる。

 漫画や同人誌には過激な描写や、あらゆるジャンルの欲望が満ち溢れ、それにより作品の絵や技術も上昇していった。多くの業者が参入し、規制前の三倍は軽く超える市場へと広がっていく。

 だが、栄光の日々は二年足らずで終わりを告げる。二次元への規制が始まったのだ。

 政府側の言い分としてはこうだ。規制された風俗業者や二次元に興味のない人々からの批判が相次いでいると。


「こっちは禁止されたというのに、同じ性を扱う漫画等が規制されないのは差別だ!」


 AVや風俗を禁止され、二年もの禁欲生活を余儀なくされた者たちが立ち上がり抗議の輪が広がりを見せ始める。この者たちの多くは、批判することにより三次元への規制を緩めてほしいという狙いがあったのだが、事は悪い方向へと突き進んだ。

 この二年間の間に二次元は、もはや無法地帯と化しており過激すぎる性描写が氾濫し、海外からも悪影響があると圧力をかけられ、二次元までも同じように規制される運びとなる。

 そう、この国は性に対して自由の利かない国へと変貌していた。







 ほんと、こんな社会に誰がした。こんな法案を通した大人たちを、張り倒したいよ。

 取り締まりが始まったからといって、性関連商品は完全に消えたわけではない。厳罰に処させるのを覚悟の上で違法な商品の闇での売買。性犯罪の増加。抑え付けられた性欲は行き場を無くし、暴走を始める。

 既婚者が増え、出生率は確かに上昇した。だが、それはパートナーを手に入れる能力があるものたちだけであり、世の中には、どう足掻いても結婚できない人たちも多く存在する。

 そういった人たちへの救済でもあった性関連の規制は、発散する場を失った者たちが犯罪に走るきっかけとなる。

 この状況に頭を痛ませた政府は妥協案を提出する。

 救済措置として三か月に一回だけ、十八歳以上しか利用できないACアダルトコーナーを開設。ここでなら、性関連商品を借りることを認めたのだ。ただし、制限はある。借りられる商品は三つまで。利用者は、それで三か月を持たせるしかないのだ。

 そして、一週間前に十八歳の誕生日を迎えた俺、反帯そりおび 生成きせいは、今日解放されたACへおもむき、ターゲットの品を手に入れることに成功した。


 ふぅ、ダメだな……燃え尽きた後は、心が冷静になりすぎて難しいことを考えてしまう。世の中には不満や思い通りにならないことは山のようにある。

 こんなことを不満に思えるのは恵まれている証拠だ。世界中では生きることで精一杯な人がいるというのに、たった一つの欲望の為に不平を口にするべきではない。

 世界から争いが無くなり、平和になりますように。

 俺は空になったティッシュの箱を満杯に膨れ上がったゴミ箱へ押し込み、仮眠をとるため、部屋の明かりを消した。

 

 



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