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捨て子

作者: 筆不精

歩道橋のちょうど真ん中、座り込んだ小さな男の子の後ろで制服姿の警官が突っ立っているのが見えた。男の子は両手で手すりを掴み下を見下ろすように座り込んでいる。普段なら野次馬根性を出してそれを見に行くような事はしない賢治だが、何か気になるものがあって男の子と警官に近づいた。

困った表情を消そうとしているためか、警官の笑顔がひきっているように見える。

「ここは寒いから公番でお母さんを待ってようか」

男の子が手すりを抱えるように、強く握り直して言った

「ここで待っとくっ」

一文字に強く閉じた口元、睨みつけるよいに一点を見つめている。

迷子か… いや、迷子なら交番に行くのを嫌がったりしないのではないか。

母親との約束? でも、こんな小さな子供を歩道橋の真ん中に置き去りにして?捨て子。

まさか… でも… この子は気付いている?

母親が引き返してくるかもしれない、その思いだけにすがって。

知っているのだ。母親がもう帰ってこないこと、それを受け止めなければいけないこと。

親からすれば我が子を一番可愛いいと思う年齢。こんな可愛い子供を置き去りにする理由とはどんなものだろう。まだいくらも人生など経験していない子供に、あまりにも酷な現実。しかし気丈にも、それを受け止めようとしている。

捨てた母親の身勝手な言い訳など聞きたくない。どんな理由があろうと我が子を捨てることは許されない。

自分の幼少期、思い出したくない記憶、産みの親を恨んだ日々。すべてが、この男の子と重なる。


いよいよ困り果てた警官が男の子の手を手すりから無理やり剥がそうとする。

男の子が声を出さずに涙を流し、それでも力いっぱい手すりにしがみついた。

賢治は見ておられず、警官に声をかけようとした瞬間。

賢治の後ろから、階段を駆け上がってくる足音が大きく響いた。

振り返ると、両手に荷物を抱えた女性が走ってくるのが見えた。

なりふりかまわず、こちらに走りよってくる姿、男の子の母親、涙を流しながら男の子に走りよった。

「ごめんね、ごめんね、遅くなって……」

男の子が力いっぱい母親にしがみついた。

すっかり安心した表情で立ち上がった警官と目が合った。

なにも言わず、お互いの会釈で状況を確認しあった。


「がんばれよっ!」

歩道橋の下まで響く大声で賢治が母子に声をかけた。

賢治の声に驚き、目が点になっている警官。

声を聞いた母子と目が合った。

理解した母親は後頭部が見えるほど大きく頭を下げた。

賢治も二人にお願いするように会釈を返し、片手を挙げた。

そして、ゆっくり階段に向かって歩き出した。







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