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西涼の鉄ちゃん  作者: 坂本 康弘
群雄割拠~西涼と覇王~
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二十三戦目「問題児、逃げる」

「――――ですから、馬超様に疑われているのですよ。このままでは殺されてしまうかもしれません」


うるさい。黙れ。


「疑われたままだと、馬鉄様もおおっぴらに行動できないんじゃないですか」


黙れよ。


「最近なんて、下手に動くなとか言われたばかりじゃないですか」


口を開くな。


「私はあくまでも馬鉄様の部下なんです。これは進言ですよ」


うるせぇ。


「『西涼賢者』と呼ばれる馬鉄様なら曹操様も手厚く歓迎してくださるに違いありません」


うるさいうるさいうるさい。


「黙っていろ! 一端の兵でしかない貴様がそのようなことを述べるではない!」


声を荒げるが、俺のしつこく裏切りを進めてくる兵士は態度を変えない。


一体どういうことなんだ?


最近、数人の兵士がある噂を持ってきたのだ。


『馬超が馬鉄を疑っている』『馬鉄を裏切ろうとしていることを知った馬超が殺そうとしている』とか。


翠がそんなことをするはずがない。


俺もまた信じているし、翠だって信頼してくれているはずだ。


……最近はかなり不味い状況だ。


渭水の戦いのように大規模な戦は起こっておらず、戦線は膠着状態長期戦になっている。


当然ただでさえ兵士が多いこの西涼連合の兵は兵糧が極限まで少なくなっている。


脱走兵も日に日に増え、一部の悪質な兵が近辺の村を略奪しているという報告まで来ている。


略奪を行ったものはもちろん死罪だ。


脱走兵も最初こそは見逃していたが、兵站を盗もうとしていた輩は死罪に処す。


一部の兵を故郷へ返したが、あまり多くは返せない。


確実に孟徳殿に狙われてしまうからな。


だから、数に物を言わせて決戦を仕掛けようとすれば奇襲または急襲され、決戦を仕掛ける前に撤退されてしまう。


少数の騎兵の散発戦ゲリラはかなり厄介だ。


通信系統が麻痺しかけているこの軍は混乱状態にさせられてしまう。


瓦解することは翡玉や、残った程銀達が頑張ってくれているおかげで防げているが……。


「ゴホゴホッ」


最近、身体がだるくて仕方ない。


軍医もいないので薬草を煎じて飲むしかないが、頭痛がする。


ろくに栄養も取れていないしな……。


天幕の外から気配がしたので見てみると、毎度毎度寝返りを申し出てくる俺の親衛隊の兵士だった。


「失礼します」


「……またお前らか、何のようだ」


「説得に来ただけです」


俺が考えた結果、こいつらは孟徳殿に買収された兵だということが分かった。


しかし、翔子が無いので下手に殺せば他の兵士達の不満を募らせてしまえかねないので、泳がせている。


「馬鉄様、寝返るべきです」


「だから言ったろ、俺は寝返る気なんて――――」


「てめぇ――――――!!」


「なっ!? 馬超!」


「ぐあっ!」


突然、天幕が切り裂かれると共に翠が銀閃を閃かせて兵士の1人を切り裂いた。


他の兵士が剣を抜く。


「翠っ!」


「あたしの真名を呼ぶんじゃねぇ!」


「っ!?」


「信じていたのに……! 玉のことを信じていたのに……!」


「翠! 聞いてくれ! 誤――」


「覚悟っ!」


弁明しようとする俺の言葉を留めて、兵士達が翠に向けて剣で襲い掛かった。


「はぁっ!」


「うぐっ!?」


数では勝っていても翠は一騎当千の将だ。見事に蹴散らされていく。


「ば、馬鉄様! 逃げましょう!」


1人の兵士が俺を掴んで言う。


「逃げるわけがない! 俺は裏切るつもりなんてないんだ!」


兵士の手を振り払い、戦いを繰り広げる翠のとこに向かう。


しかし、


『おおぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉぉ!!』


崩れた天幕の回りには数百人程度の兵士達が現れ。翠に襲い掛かった。


それに気がついたほかの兵士が翠を助けようとして、謀反を起こした兵士に切りかかる。


当然数の多い翠側の兵士が勝利するのだが、それは違う。


今起きているのは同士討ち(・・・・)だ。


同じ鎧を着ているのだから、乱戦になれば誰がどこの所属かなんて分からない。


たちまち乱戦は同士討ちへとなっていく。


頭に血が上っているのか翠は周りにいる人という人を斬っている。


「玉様! なにがあったのですか!?」


「詳しいことはあとで知らせる! 翡玉は蒲公英と合流して、混乱を沈めてくれ!」


「御意!」


「申し上げます――」


次々と入ってくる報告。痛む体にムチを打って俺は混乱沈めようとするが、声が出ない。


ただでさえろくな物を食べていなかったのだ。今にも倒れそうになる。


そして最後に、俺は倒れそうになることになるのだった。


ヒュンヒュンと風を斬る音と共に空が明るくなった。


夜が明けたのではない。空を見上げるとそれは火矢の雨(・・・・)


乾燥している冬季の時期はよく燃える。


天幕に引火した火は一気に燃えあがり、たちまち回りを火の海に変えた。


駄目押しを言わんばかりに地面を揺るがす鬨の声が上がるのである。


『おおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉおぉぉぉぉぉ!!!』


「も、申し上げますっ!」


慌てた様子で返り血を浴びたのであろう赤く染まった帝銀が報告に来た。


「東と南から魏軍が現れ、陣営に侵に――――」


ヒュンという音と共にドスという鈍い音が響いた。


「程銀っ!」


前のめりに倒れた彼女は俺に抱きかかえられるようになる。


「め……いしゅ……。ば、超様た……ちを連れお逃げ……ください……!」


最期にそれだけ言い残して彼女から力が抜けた。


「徐公明ここにありーっ!」


斧を携えた女性が名乗り上げて、魏軍の騎兵を連れて突撃をしかけてきた。


「盟主! ここはこの楊秋が!」


「私成宜も!」


俺の後ろから二人が槍を携えて、徐晃将軍に向かっていく。


楊秋も成宜も関中軍閥の中でも実力者だっただけに、それなりに粘るかと思っていた。


しかし、それは涼州だけならば、だ。


「成宜っ!」


悲鳴に近い声で楊秋が叫んだ。


徐晃将軍はその斧で成宜を切り裂き、落馬させた。彼女が動くことはない。


「貴様ぁーっ!」


楊秋が徐晃将軍に切りかかるが、一閃。


彼女は徐晃将軍に通り過ぎられるようになり、落馬した。


徐晃将軍は俺を見ると、馬を駆けてきた。


「まずい……っ!」


俺は一目散に近くの馬に飛び乗り、腹を蹴って駆け出させる。


乱戦状態の西涼兵と魏兵の間を抜けて、俺はただひたすら逃げる。


俺の前にとある人物が立ち塞がった。


「馬鉄! ここがあったが百年目! 華琳様のためにその首いただくぞ!」


「なんでこういう時に出てくるんだよ……!」


元譲殿だった。


彼女はその大剣を煌かせ、俺に向かってくる。


馬術はいくら文官とはいえ西涼出身の俺だ。そこは勝っている。


しかし、戦闘力にすればどうなるか?


天地がひっくり帰っても勝てることはない。


勝つか負けるかの話の前に死ぬか、逃げれるかだけど。


そこに、俺に一直線に向かってくる元譲殿の横から二本の斧が振り下ろされた。


「くっ! 貴様は……龐徳か!」


「申し訳ありませんがやらせるわけにはいきません。玉様、ここは私に任せてください」


「翠はどうなった!?」


「姫もお逃げになられています! 西涼兵は各自、撤退させています!」


「すまんが任せる!」


「くそっ! 逃げるな!」


俺を追いかけようとする元譲殿の前に翡玉の二本の斧が阻む。


「玉様は……私が守る!」






首脳陣を失った西涼連合は瓦解し、魏軍は掃討を始める。


ここに、西涼連合の敗北が決まったのだった。


しかし、物語は、戦いはまだ終わっていない。

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