十三戦目「問題児は帰還する」
タイトルと内容が噛み合っていない…。
その後、長安を李カク達が占拠。
反董卓連合は董卓が死んだという噂を聞いて、多くの諸侯が自分達の領地に帰っていった。
一部の諸侯は天子様をお救いするのだ!と言ったが、いつまでたっても洛陽復興という名目で行動しない諸侯の中でも大勢力である袁紹軍と袁術軍に呆れ、独断で攻めたが多くの西涼兵を持つ李カク達に返り討ちにされてしまっていた。
ちなみに本物の董卓は一刀のところにいってしまっている。お付きの軍師もね。
実質的に連合は解散。
俺としてはこのまま長安を攻めて皇帝を救いたいが、つれてきている兵が一万五千しかいないために十万以上の勢力があるという李カク達を攻めることに断念。
一度、武威に帰還することに決めた。
翡翠さんにそのことを救えば身を徹して皇帝をお救いすると言うだろう。翡翠さんは漢の忠臣と公言しているのだから。
だけど、俺はもう無理だと思っている。なぜなら―――――――――――
洛陽を出て半月・・・いや、もっと経ったかな?
よく分からんけど、どうも馬鉄っす。
長安を南から迂回するように通って宛、安定を経由しながら武威に向かってますよー。
え?その間に何をしたって?
んー、一緒に寝たことかな。別にナニもしてないからな?
俺は無理矢理はいやだ!
・・・いや、まあ、翠達が合意なら構わんけどさ。
さてさて、そろそろ武威に到着するはずだぁ。
・・・まあ、ともかくとして、武威に到着。
俺は部隊帰還の処理でやることがいっぱいあるので、翠達はもう翡翠さんに会ってるだろうなぁ。
俺としては一秒でも速く会いたいんだけどなぁ・・・。
帰還して即効で執務室入り。
翡翠さんだけだったから溜まりに溜まった書類仕事がある。
それにもうすぐ収穫時期だし、冬も近いし・・・やることがいっぱいだなぁ。
あ、あと提携している商人の人に荊州の余剰食糧を送ってもらわなきゃ。
軍事関連は今回の戦で亡くなった兵士の遺族への代金を送らないと。
・・・え?悲しくないのかって?
そりゃあもう、嫌だけど慣れちまったよ、ほんと。
ちなみにこの仕事は俺か翡翠さんくらいだ。やるのはね。
なぜかって?
兵士を生かすのも殺すのも、俺が考えているからさ。
俺の策によって翠達が兵士を率いる。
そして死ぬのも俺のせいだ。
被害なしの戦なんてよほど小さい戦だ。少数の盗賊討伐とかな。
だけど、何千、何万の戦となるとよほどの限り被害無しなんてありえない。
・・・まあ、そういうもんだ。
おっと、間諜からの情報も入っているな。
つーか、高度な忍びみたいな間諜部隊なんてどうやって作るんだ?
情報操作もお手の物なんていうさ。
ありえないよなぁ。
呉の間諜は武将としても有名らしいから羨ましいもんだよ。
なにより商人に扮するならともかく将として、文官として間諜にするのはかなり高度だ。
間諜の実力を持たせながら、扮する職業の能力までつけなければならないからな。
さてさて、新兵器というか、ま、投石車も発注しておくか。
まずは兵士用の槍や弓、矢の補充。
馬の鐙とかもだなぁ。
そんな感じで書類仕事をしていると
「玉ー♪」
「はうわ!」
突然、背中に巨大な何かの感触が!!
それに耳に息を吹きかけ、甘噛みしてきたぞ!?
「なななななななななななななななななんすか翡翠さん」
「ふふっ♪いろいろご苦労様玉」
「ま、ま、ま、ま、まあ仕事ですから」
のうおっ!?
背中に巨大な感触がぁ!形まではっきり伝わってくるぞぉ!?
「そ、そういえばもう翠達とはいいんですか?」
「あの娘達ならもうご飯食べてるわ」
「あ、もうそんな時間ですか」
「ええ、そうよ。せっかく帰ってきたんだから、翡玉に報告任せないで戦後処理なんてしてるんじゃないよ」
「で、ですが・・・はにゃあ!?」
ま、また耳に息を吹きかけてくる!?
「ちょっと外に出ましょう」
「え、ちょ」
俺のような男に翡翠さんの力に勝てるはずがなく、腕を引っ張られつれてかれた。
――――――――――――――――――――連れて来られたのとても、夜空が綺麗なところだった。
翡翠さんは今、俺に背を向けて先行して歩いている。
そんな姿を見て、俺は口から言葉が漏れる。
「――――――――――――――――――――逝く、んですね」
俺の言葉に翡翠さんは横顔をチラリと微笑んで見せた。
「やっぱり、玉には気がつかれてたかぁ」
「行ってるでしょう?俺は大切な人の全てを知っているんですから」
「病のことも?」
「はい、何の病気かは分かりませんでしたが、症状を見て、あるとあらゆる情報を調べて周りましたから。・・・書簡がいっぱいでしたがね」
「どうりで予算に穴があると思ってたけど、私のことに使っていたのね」
「ええ、そうです」
チラリと西涼の将星を見れば、英雄馬騰の将星は弱弱しい光を放っている。
「俺にとって貴女は大切な人です。翡翠さんから見れば、今は亡き旦那様の方が好きなんだと思っています。だから俺はせめて二――――――――――――――――――――」
俺が言い切る前に翡翠さんは言った。
「玉、私にとって貴方は一番よ。前の旦那よりも愛してるわ」
「え?」
「確かにあの人はあたしが翠を産んで、蒲公英を引き取ってすぐに亡くなったわ。確かにあの人は私にとって大事な人だった愛しい人だった。だけどね・・・時々思うのよ。貴方は旦那の生まれ変わりなんじゃないかって」
「ですが――――――――――――――――――――」
「確かに違うと思うわ。・・・だけどね、そっくりなのよ。だとしても旦那は旦那。貴方は貴方」
まるで儚げな様子の翡翠さんが星を見るために顔を上げた。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――泣いている?
「玉」
「はい」
「私はすっごく寂しいわ・・・。正直時代はもう翠のように新たな世代を迎えている。私は何時だって死んでも構わなかった、だけど―――――――――――――――」
翡翠さんは一泊置いて、言った。
「貴方が来てから死にたくなくなってしまったのよぉ・・・」
「翡翠さん!」
俺は思わず翡翠さんを抱き締めた。・・・俺よりも何千倍も強くて、人生経験のある人だけど、今は儚げな女性に見えた。普段の翡翠さんからはありえない様子だった。とても強い女性。だけど、その体は細々しくて、俺の胸に収まるほど小さかった。
「死にたくないよぉ・・・死にたくないよぉ玉ぅ・・・」
「翡翠さん・・・・」
俺は翡翠さんの名前しか呼ぶことが出来なかった。
・・・なんでかって?
そりゃあさ・・・いくら探しても無理だった!あらゆる医者に見てもらった!旅をしていたかっこいい感じの暑苦しそうな青年にも見てもらった!五斗米道の本拠地である漢中にも訊ねた!
だけど!だけど・・・医者はみな無理といった!
俺だって翡翠さんを死なせたくない!だって俺の親代わりでもあり!愛している人だし!翠のお母さんだし!西涼のお母さんだし・・・とにかく・・・俺だって・・・俺だってぇ・・・・。
俺の胸の中で泣く翡翠さんを思いっきり抱き締める。
「翡翠さん・・・」
「玉・・・私は貴方を愛してるわ。本当は・・・翠みたいな若い子の方がいいと思うのだけど・・・」
「いいんです、俺は翡翠さんも翠も翡玉も蒲公英もみんな愛してます。年齢なんてどうでもいいです」
「なら翠には悪いけど、遠慮無く」
「え?一体なにするおつも――――――――――んぐっ!?」
接吻された。
チューされた。
キスされた。
・・・言い方はともかく、俺のファーストキスは翡翠さんの物になった。
別に俺のファーストキスなんてどうでもいい。
今はただ・・・
――――――――――――――――――――残り少ない翡翠さんとの時間を大切にすることにする。
だけど、その光景を見ていた人がいることは俺のような文官には気がつかなかった。
side馬超
母上と玉がいつまでたっても来ないので、仕方なく呼ぶために探していた。
すると外の方で二人を見かけた。
「あ、母う―――――――――」
あたしは声をかけようとしたが、それは次の出来事によって止められた。
玉が、母上を、抱き締めたのだった。
泣いている?
母上が?
それに病気?さっき言ってたのって・・・。
死にたくない?母上?どういうことなんだ。
最初は隠れて盗み聞きするつもりはなかったのだけど、あたしは思わず隠れてみていた。
母上も・・・玉が好きなのか・・・・。
・・・うん、気がついてはいたんだ。でもそれは家族だからって。そんな風に思っていた。
だけど、今なら言える。
あたしは玉が大好きなのだ。
家族で好きというのは自分の感情を背けるためだったんだ。
「・・・そうだよな・・・あたしみたいなガサツで男みたいな女より・・・大人っぽくてあたしより強い母上の方がいいもんな・・・」
・・・口からそんな言葉が漏れてくる。
あたしは小さいころから、馬に乗って兵士の訓練に混ざってきていた。
・・・思えば、あたしは女っぽいことをしたことなよな。
そして、あたしは見てしまった。
「っ!?」
母上が、玉に口付けをしたところを。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
思わずあたしはその場を走り出したのだった。
翡翠:
やあ皆。
翠の母親の馬寿成だ。
玉達が帰ってきたんだよ。
いやぁ、一段と逞しくなってきたね〜。
私もあと十くらい若かったら行ってたわ〜。
…まあ、玉といられるし…。
病気の方も難しいわ…もう少しと言わず、ずっと家族で。
翠に蒲公英、翡玉に玉と皆でね。
時代は待ってくれないけど…。
それじゃあ皆、また会いましょう。