魔王軍がブラックなので改革します。
この物語は全てフィクションであり、実在する人物、事件とは一切関係ありません。
目を覚ますと、私は玉座に座っていた。
目の前には、見るからに禍々しい魔族たちが並んでいる。
「魔王様! お目覚めになられましたか!」
「……ここは?」
「魔王城でございます!」
なるほど。
これは、あれか。
異世界転生というやつか。
しかも私は魔王。
随分と景気のいい転生先だ。
「それで?」
「はい?」
「魔王軍の現状を説明してくれ」
私の言葉に、隣に立つ側近が胸を張った。
「現在、魔王軍は三万二千名!」
「ほう」
「魔王様を頂点として、四天王、各軍団長、騎士団、魔法兵団、魔獣部隊などが――」
「勤務時間は?」
「……はい?」
「勤務時間だ」
「朝六時から深夜二時まででございます」
「…………」
私は黙った。
「休日は?」
「ございません!」
「有給休暇は?」
「……なんでしょうか、それは?」
私は玉座の肘掛けを握りしめた。
なるほど。
理解した。
この魔王軍、ブラック企業だ。
「ちなみに残業代は?」
「残業……?」
「深夜まで働いているだろう」
「はい!」
側近は誇らしげに答えた。
「魔王軍では、魔王様のためならば身を粉にして働くことこそ忠誠の証でございます!」
「違う」
「は?」
「それは忠誠ではない」
私は立ち上がった。
「ただの労働環境の悪化だ」
「…………」
「本日より、魔王軍の改革を行う」
「魔王様!?」
こうして、魔王軍改革が始まった。
まず、勤務時間を朝九時から夕方五時までとした。
週休二日制を導入。
有給休暇を制定。
残業には申請を必要とし、当然ながら残業代も支給する。
「魔王様! 軍団長から有給申請が届いております!」
「承認」
「四天王からもです!」
「承認」
「魔王様への謁見を希望する者が――」
「明日の十時から予約を取れ」
「勇者が国境を突破しました!」
「今日は何曜日だ?」
「土曜日です!」
「では、月曜日まで待たせろ」
「よろしいのですか!?」
「休日だぞ」
「…………」
さらに、無意味な会議を廃止。
報告書は簡略化。
現場に権限を移譲。
兵士の休憩所を整備。
食堂の食事も改善した。
すると――。
「魔王様! 兵士たちの士気が過去最高です!」
「そうか」
「しかも訓練効率が三割ほど向上しております!」
「そうか」
「退職者も激減しました!」
「そうか」
「病欠も減少しております!」
「当然だ」
私は書類に目を通す。
「人間側からの転職希望者も増えております!」
「……ん?」
「『魔王軍はホワイトだと聞いた』と」
「…………」
「どういたしましょう?」
「採用しろ」
「よろしいのですか!?」
「人手不足だっただろう」
「はい!」
「なら採用だ」
改革を始めて一年。
魔王軍は、以前とは別組織のようになっていた。
そしてある日。
玉座の間に兵士が駆け込んできた。
「魔王様!」
「どうした?」
「勇者が魔王城へ侵入しました!」
「……今日の予定は?」
「土曜日です!」
「ならば休日だ」
「ですが勇者が!」
「休日出勤は禁止だ」
「しかし!」
「勇者には帰ってもらえ」
「…………」
兵士が困惑していると、遠くから大声が響いた。
「魔王ォォォ!」
勇者が玉座の間へ飛び込んでくる。
「貴様を倒し、世界を救う!」
「そうか」
私は勇者を見た。
「ところで君」
「なんだ!」
「今日は土曜日だ」
「……?」
「魔王軍は休日だ」
「…………」
「月曜日の九時に、改めて来てくれ」
「そんな魔王討伐の予約みたいな話があるか!」
勇者が叫ぶ。
「魔王軍の都合など知るか!」
「困ったな」
私は側近を見る。
「勇者が休日出勤を強要している」
「即刻お帰りいただきましょう」
側近が勇者を指差す。
「勇者殿! お引き取りください!」
「なぜだ!?」
「我々にも生活があるのです!」
「魔王軍だろう!?」
「魔王軍である前に労働者です!」
「…………」
勇者が固まった。
私は紅茶を一口飲む。
「勇者よ」
「……なんだ」
「世界征服は月曜日からだ」
「そんな魔王がいるかぁぁぁ!」
勇者の叫び声が、休日の魔王城に響き渡った。
私は窓の外を眺める。
空は青い。
今日は休日。
素晴らしい。
前世では、こんな時間を過ごすことすらできなかった。
ならば。
今度こそ、私も魔王軍も。
定時で帰ろう。
お読み頂き、ありがとうございます。




