第4話 いざ、王立学院へ(火竜と共に)
「よし、どこからどう見ても完璧美少女……じゃなくって、問題のない装いですわ」
姿見の前でくるりと一回転し、リディアーヌは自らの姿に満足した。
真新しいアズナヴール王立学院の制服に身を包み、銀髪は左右を編み込んで丁寧に巻いた。
丁寧に化粧が施された顔はいつもより三割増しで儚く、穏やかそうに見える。
「後は、ちゃんと『聖女』らしい振る舞いをすれば、完璧ですわ」
口調はまだ慣れないが、これから馴染んでくるだろう。マナーや礼儀作法についても、今までの遅れを取り戻す勢いで必死に詰め込んだ。
これなら、世間一般の『聖女』イメージからそれほど離れていないはずだ。
なにせリディアーヌは、見た目だけは楚々とした美少女なのだから。
部屋を出ると、瞳を涙でいっぱいにした両親と姉、幼い頃から仕えてくれているメイドや執事達がいた。
彼らは皆、リディアーヌの旅立ちを寂しがってくれているのだ。
「お父様、お母様、お姉様。わたくし、行ってまいりますわ」
真っ先に噴き出したのは執事長である。
失礼な振る舞いだが、怒ったりはしない。なぜなら彼は、小さい頃からリディアーヌのお転婆を見守ってくれていたのだ。
こっそり屋敷を抜け出し、食事抜きだと怒られたリディアーヌにこっそり食事をくれたのは、一度や二度ではない。
バリエ家がこのまま没落してしまえば、使用人達も職を失ってしまう。
そんなこと、絶対にあってはならない。
◆
「サラド」
サラドの首あたりに触れると、サラドは慌てて首を下げ、リディアーヌが背に飛び乗りやすいよう屈んでくれた。
うん、ばっちりね。会話はできないけど、意志疎通はできてるわ。
サラドの背にまたがり、落ちないように首筋にぎゅっと抱き着く。
「出発よ、サラド!」
アズナヴール王立学院に竜に乗って登場する。
これが、リディアーヌの考えた聖女計画の第一歩であった。
◆
アズナヴール王国は大陸中央に位置する小国だ。そのため、バリエ伯領から王都はそれほど離れていない。
サラドの背に乗ってしばらく経つと、王立学院が見えてきた。
入学式は明日だけど、春学期は今日から始まっているはず。
校庭に下りたら、それなりに目立てるわよね。
「サラド、下りて」
頭を撫で、校庭を指差す。サラドはゆっくりと降下を始めた。
どうやら校庭では男子生徒を対象に剣術の授業が行われているようだ。邪魔にならないよう隅っこに下りたが、当然、全員の視線をあっという間に集めることとなった。
「りゅ、竜!?」
「しかも火竜だぞ!?」
「なんで火竜に乗って火傷してないんだ!?」
「あの子は誰なんだ!?」
混乱した男子生徒達は、教師の静止も聞かずにリディアーヌの周りを取り囲んだ。
リディアーヌはゆっくりとサラドから下り、まずは優雅に一礼した。
掴みが肝心よね。ここで、いかに聖女らしく振る舞うかが、今後の私を決めると言っても過言ではないわ。
「初めまして、皆様。わたくし、リディアーヌ・バリエと申しますわ」
バリエ、という名前にざわついたのは、姉の退学騒ぎがあったからだろう。
「わたくし、皆様に聞いていただきたいことがありますの。よろしいでしょうか?」
「言ってごらん」
返事をしたのは、奥の方から出てきた、水色の髪の美男子だった。
異性にたいして関心のないリディアーヌでさえ、彼の顔は覚えている。といってもそれは、彼が美形だからではない。
ランベール・アズナヴール。
彼こそ、アズナヴール王国の王太子である。
「わたくしこそが聖女ですわ。それを証明するために、サラドを連れてきましたの」
サラドの頭を撫でる。するとサラドは、リディアーヌを庇うように翼を大きく広げた。
出会い方は少々乱暴だったものの、ここにくるまでの期間、サラドとは友情を育んできたのだ。
「……君が聖女、か。この学院には既に聖女がいることを君は知っているのかい?」
リディアーヌは全力で聖女ぶらなくてはならない。だからリディアーヌは、精一杯穏やかに答えた。
「はい。聖女を騙る女生徒がいると聞いておりますわ」
「……なるほど」
ランベールが黙り込んだタイミングで、リディアーヌはもう一度頭を下げた。
あくまでも今日は前哨戦。本番は明日の入学式以降だ。
「わたくしは明日からこのアズナヴール王立学院に入学いたします。よろしくお願いいたしますわ」
挨拶を済ませ、再びサラドへまたがる。
これで明日の入学式までに、リディアーヌの噂は聖女を騙るニコレットまで届くだろう。




