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里の香りが有(す)る人  作者: みつ


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第4話 2度目の修学旅行


自我を取り戻す前の彼、岩地(いわち)(あき)は2度目の修学旅行の真っ最中、教師に理不尽に怒られていた。

「おい、岩地あれ見ろよ」

ささやくような声が彼の耳元に入ってきてびっくりしたその反動でかなり大袈裟に反応した。

「おい、バカ! 場所考えろってたっちゃん!」

(声、でかすぎたか……)

そう。この修学旅行は普通じゃない。

そして今、行われているのはその中でもちょっとした変な行事だ。

と、言ってもただの食事をする場。

でも、この場では喋ることはおろか物音1つ立てることすら許されない。

いわゆる、黙食の場だった。

「おい! なんだ今の声は!」

クラスの担当の教師でも無い男教師の声が静寂な空間に響き渡った。


近くに寄ってきて確認するように男教師は声を上げた。

「この辺りで声がしたよなあ!」

(おめぇがうるせえよ)

内心、そう思いながらもなぜか黙っていられない性分の彼は素直に謝ってしまった。

「すみません。俺です」

「また! おまえか!」


彼は全く同じこの場で1度だけ注目を浴びるようなことをしていた。

この場は食べ物を残してもいけない。

だが、好き嫌いが激しい彼にはどうしても口に入れらない物があった。

その食べ物が配膳されてしまい、やはり拒絶反応で口の中にも運べなかった彼は無理やりこの男教師に口に入れられて、嘔吐してしまった。


彼は嫌な思いをさせられた相手だからこそ当然の如く面倒くさがりながらも返事をした。

「……はい」

「他は? 他もいるだろ!」

「いや、居ないです」

(たちばな)は申し訳なさそうな目で彼を見ながら何か言おうとしていたが、間髪入れずに男教師が発したため掻き消された。

「じゃあ、おまえが独り言を喋っていたんだな」

(バカが、んなわけねーよ)


嘲笑うような心の声が喉まで出かけたがなんとか引き止めて男教師の発言を認めた。

「そんな感じです」

「そんな感じてなんだ! そんな感じて!」

「ウザっ」

とうとう、心の声が漏れてしまった。

「おい! おまえふざけんなよ!」

(こんなことに、いちいちキレてんじゃねーよ)


危なかったがなんとか声に出さないで済んだ彼は素直に頭を下げて謝った。

「本当にごめんなさい。この通りです」

「始めからそうやって、謝っておけばいいんだよ! とりあえず、許す」

こういう怒り方をする大人は、揃って頭が無いんだろうなと彼は思っていた。

そもそも始めに謝っているじゃないか。

そこに対していちいち突っかかる。

こんな悪手を踏んでくるんだから当たり前に適当になる物だ。

その話が終わった時には既に食事の時間が終わりを迎えていた。

これは修学旅行で最後の行事だったため彼にとって最悪の、そして何も変えられなかった、ただの苦い思い出となってしまった。


そこからは他には何も無く、帰るだけとなり新幹線に乗り込んだ。

新幹線の中は、かなり自由に席移動が出来るのもあり喋りたい人と喋る雰囲気だ。

そこで(たちばな)大地(だいち)が彼の元にやってきた。

おそらくさっきのことだろうと思っていた彼は、野暮なことは聞かないと決めていた。

「ごめんな、さっきは」

「たっちゃん! べつに、大丈夫っ! 気にしてないからよ!」

「それならいいんだけどよ。まあまあウザかったしなあいつ」

「いや、マジでウザかった。てか、あんなん気にしだしたらとっくに友達辞めてるよ」

そう。旧友である橘大地とは中学からの仲でもあり、今後の人生でも切っても切りきれない、そんな人だと彼は確信していた。


自我を取り戻す前の彼は、しばらく新幹線の中でゆっくりしていた。

気が付いた時には周りには誰1人として居ない。

新幹線の中から見る外の景色で彼は、黄昏(たそがれ)ていた。

すると、どこか懐かしい声が右側の方で聴こえてきて正面を向いた。

「ねぇねぇ、岩地くん?」

そう。この声の主である彼女、(ゆう)里香(りか)は秋の近い内の未来に片重いをしている相手だ。

この瞬間。やっと時間跳躍者(タイムリーパー)として秋は自我を取り戻した。

「あ、ゆぅ……(ゆう)さん。ごめん、ボーッとしてた。どうしたの?」


彼女はとても表情筋が豊かな人で、まるで秋にしか見せてないんじゃないかと思わせるような笑顔を浮かべた。

「同級生なんだからさ。かしこまり過ぎだよ。それにゆうて呼ぼうとしてたでしょ。いいよ、呼び捨てで。特になんもないけど喋りかけたよ」

呼び捨ては色んな意味でだめだ。

まず、片重いをしている相手に対して呼び捨てには出来ない性分だった。

1周目の時(ファーストタイム)、彼は特にそうだった。

秋は1周目の時を再現するべきと感じている節があり、それで呼び捨てには出来なかった。

「いやあ、慣れないと呼び捨てには出来ないんだよね。てか、なんもないのねえ」

(実際は、ゆうとも呼べる、けどまだだ)

「岩地くん、かたすぎるんだよ。もっと気楽に! ほんとなんとなく!」

「まあそれはそうやけどね。てかそれで言ったら侑さんもやんっ!」

ふと、2人はこの新幹線の号車中(ごうしゃじゅう)がまるで2人だけの空間なんじゃないかと、思わされる様な雰囲気の笑い声を上げた。


周りからの視線を感じて少し静かに話すことを心がけるように自然としていった。

「そういえばさ、岩地くんてペット飼ってる?」

「猫、1匹、飼ってるんだ」

秋はこのやり取りをなんとなく覚えていて少し変な反応になってしまった。

「え〜! なんて名前なん?」


この独特な空気感に懐かしさを感じていた。

侑の質問は嫌味がなく、しかもどうしてかは分からないけど話が永遠に途切れない。

そんな展開を繰り広げている。

「みゃー子って、名前だよ」

「名前かわいい! なんでその名前になったん?」

「俺が名付けた訳じゃないけど、鳴く声から来てるらしいんだよねぇ」

「あ〜! みゃーって鳴くのね!」

(破壊力……えぐい……みゃーて……)


1周目の時、同じような会話をしていたが彼は侑に対して興味が無かったからこんなこと思いもしていなかった。

自分の見る目がもう少し早ければあんなことにはなら無かったとここで確信した。

当然、侑の飼ってるペットが居るのも知ってるし名前も知っているけど、あえて知らないフリをして質問をした。

「そ、そうなんだよねえ。ちなみに侑さんはペット飼ってる?」

「飼ってるよ! 犬、飼ってる〜!」

「なんて名前なの?」

「とこって、言うんだよねっ!」

「めちゃいい名前やねえ。どうしてその名前、付けたの?」


名前は覚えているけど由来は知らなかった秋は、自然な感じで質問することが出来た。

「それこそ、私が付けた訳じゃないんだけど。とことこ歩くから、らしいんだよねえ〜」

「おもろ! うちの猫と名前の付け方似てるね!」

「それね! 思った!」

その後も永遠とペットの話をしていた。

(もう、新幹線から降りたくない)

楽し過ぎた秋はそんなことを思っていた。

だけどそんな楽しい時間ほどすぐに終わりが来てしまう。

降りる駅に着いてしまった。

(降りたくない……)

と思いながらも同じクラスのみんなが先に行く姿を見て諦めた秋は侑を前にして一緒に歩いた。

この時、侑の後ろ姿がとにかく綺麗だった。

特に髪のなびき方。

右左と揺れているのを1本1本に対して、注視することでまるで催眠に合ってるかのような感覚だった。

そうして、しばらく歩くと解散の場に着いていた。


当然の如く、岩地母が迎えに来ていた。

少し疲れている様子が伺えたけど、秋は何も言わなかった。

「おかえり、あき。どうだった? 楽しかった?」

「普通だったよ」

「写真とかは撮ったの?」

「うーん。あんまり、撮ってなかった気がする」

「そうなんだ。残念……」

「なにで来たの?」

「なにって、電車で来たと思ってるの? そんな訳無いでしょ。車で来たよ。当たり前でしょ」

「そうなんだ。ありがとうございます」

車だと実家から1時間はかかる道のりだ。

(だから疲れてるのか)

あまり話すことも無いし無理に話すと余計に疲れさせてしまう気がした秋は黙って歩いた。


車に着いてから後部座席に座った秋は、車が動き始めてから喋ることは積極的にはしないが寝ないようにしていた。

1周目の時、高1である彼は運転に対しての苦労を知らないために後部座席で熟睡していた。

時間跳躍(タイムリープ)後の秋はその苦労を痛いほどに理解していたからだ。


運転をしている岩地母が信号待ちになると同時にルームミラー越しに声を掛けてきた。

「あき、寝てていいんだよ」

「大丈夫。あんまり眠くないから」

嘘だ。本当はかなり眠いが目を必死に開くために上瞼(うわまぶた)にかなり力を込めていた。

スマホをいじって眠らないようにするのも手だったが、車酔いを起こしてしまうため出来なかった。

結局、暇を潰す方法が見つからないままただ外を眺めて気付いたら家に着いた。


車を縦列駐車で停めると岩地母は驚いた様子だった。

「家、着いたけど。あき、本当に寝なかったね。珍しいこともあるもんね」

「なんか、目が覚めてた」

「今日の晩御飯は、あきの大好物。オムレツだよ」

「え! そうなの! めちゃ嬉しい!」

秋は思わずガッツポーズをした。

それもそのはず、秋にとって岩地母の作るオムレツは味以上の価値があって何にも変え難い物だ。

それに修学旅行での食事は、秋にとって全部味のしない物だったから余計だ。

それもそのはず、秋は嫌いな物が出るとお味噌汁で流し込んだりして食べていた。

そしてその行為は毎食続いていた。

どうしても食べられない物を除いて。


勢いに任せて、でも音は極力立てずにオムレツを完食した秋はひと言。

「ごちそうさま」

岩地母は驚いた様子だった。

「なんか、珍しいね。ごちそうさま言うの」

「そら、ね。」


寝る準備を済ませた秋は、自分の部屋に戻った。

今日のみゃー子はおやすみ中だった。

少し悲しさを覚えながらも流石に眠気が疲労と共にきて限界の秋は、ベットで横になると泥のように眠りについた。

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