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里の香りが有(す)る人  作者: みつ


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第1話 時間跳躍(行)


——時間跳躍(タイムリープ)後の彼——


 ふと、彼は目を覚ましその光景に驚いた様子で声を出した。

「ハッ! ここは……? 俺は死んだはず……」

そう。彼、岩地(いわち)(あき)自殺遂行者(じさつすいこうしゃ)だ。

何故、自殺遂行者になったのか……。

自殺遂行者になる前の彼が、自分自身の人生に語りかけた結果この結論に至った。


——時間跳躍(タイムリープ)前の彼——


 彼は色々なバイトに就いては辞め、定職に就くことも無い、いわゆるフリーターの実家暮らしだ。

年齢はアラサー。そう、自分の年齢が定かでは無く見当もつかない状態だった。

その位どうしようも無い人生を送っていた。



 ノックのひとつも無く秋の部屋にあるドアは静かな音で開いた。岩地母だ。

『起きて。手伝って』

この時の時間は既に昼頃に差し掛かっていた。

と言っても秋は朝起きてひと仕事終えた後の束の間の休息だった。

ひと仕事は、祖父母の健康管理とゴミ出しだ。

『わかった』

ここで何するの?という質問は愚問だ。

何故なら、実家暮らしで悠々自適な生活を送っているのだから、素直に手伝うのが当たり前だ。


 階段を忙しない様子で下りる岩地母は、対照的にゆっくり階段を下りている秋に今日の用事を伝えた。

『今日済ませないといけないことは、銀行行くのと晩御飯の買い出し。だからお昼、外で済ませるよ』

『わかった。リビングの掃除は?』

『とりあえず後でお願い。時間無いから』

『わかった。俺のカバン持ってきてないから持ってくる。んで、そのまま車乗ってる』

返事は無かったが気にせず、階段を今度は忙しない様子で上がり、自分の部屋に戻ってカバンを取って車へと向かい運転席でエンジンを掛けながら待機した。

直ぐに岩地母も乗車して来た。

『とりあえず銀行行って』

『いつもんとこで良いんだよね?』

『うん。そう』

『わかった』

返事をすると直ぐに発進した。


 車内での会話は特に無く銀行まで約10分の道のりだ。

銀行に着いたら、岩地母は必要な物を持って車から足早に向かった。

この時、時刻は11時25分。

後、5分遅れたら窓口は閉まっていた。

間もなくして岩地母は車に戻ってきた。

『次は買い物。いつものスーパーかそれとも広幡(ひろはた)駅にする? まあ広幡駅にすればご飯も済ませれるけど』

(こういう時は絶対に後者にするべきだ)

下手に自我を出すと面倒事になるし、俺もそのまま済ませれる方がいいと思っていた。

『広幡駅でいいと思う』

『じゃあ広幡駅でお願い』

『わかった』

エンジンを切っていたので、エンジンを掛け直して発

進した。


 また車内での会話は特に無く駅まで、5分もしない道のりだ。

駅に着いたら今度は2人で行くが、この時必要な物は全て秋が持って行く。

30分程で買い物を終えて、その後ご飯も1時間程で終えて、駅周辺には2時間も居ないで帰宅することになった。


 帰宅時の車内で岩地母が思い出したように口を開いた。

『そう言えば、そろそろ誕生日だけどなんか欲しい物ある?』

『何も無いから要らないかな』

この時、既に秋の気持ち的には自殺希願者(じさつきがんしゃ)としての自殺欲が合ったから、誕生日を迎える気力が無かった。

だから誕生日が5日後に控えてるのも理解していたが正直考えたく無かった。

『じゃあいつものイチゴのやつだけ用意するよ』

『ありがとうございます』

なんとなく丁寧な返事をしていた。

こんな話をしていたら家に着いていた。

家に着いたら岩地母は颯爽と家の鍵を開けに行く。

荷物を持っていくのは秋のやること。

いつもの役割通りの動きだ。


 秋は帰宅後、リビングと玄関周りの掃除をしてから自分の部屋に戻った。

その後は特に呼ばれることも無く気付いたら夜ご飯の時間になっていた。

今日は夜ご飯の内容を知っているからリビングに向かった。

夜ご飯の内容を知っているか知らないかで、手伝う瞬間が有るか無いかの見極めが付くから動きも違ってくる。

今日は鍋だ。

あまり手伝うことは無いと思った秋はリビングのテーブルの準備だけ済ませていた。

準備を整えて数分でテーブルの上には、コンロを下敷きに鍋が置かれ、白米が入った茶碗と取り皿も用意された状態になった。


『いただきます』

普段、秋は食前の挨拶をしないが今日はなんとなく食前の挨拶をした。

その声は虚しくも誰も居ない部屋に寂しく響いた。

今日は1人での食事だ。

岩地母は車で父の迎えをするため外出だ。

黙々と食べ進め、食べ終わったら食器を水につけてお風呂に入り、寝巻きに着替えて、自分の部屋で就寝の準備を進めた。


 眠りにつけない秋はずっと起きていた。

そして家族の寝静まるタイミングで自殺の計画を遂行することにした。

どういう自殺にするか彼は決めていた。

それは溺死だ。

恐らく、自殺をしようとする人達は飛び降りが基本だろう。

ただ自分の骨が残ると言うのが、どうしても気に食わなくて考えた結果、溺死が良いなと思った。


 彼は行動に出た。

先ずは服を寝巻きから私服に着替えた。

そして、家族の誰にもバレないよう家の外に出ると洗練された身のこなしで、自転車に乗って川沿いへと向かい着いたら、彼の元々考えていたスポットに移動した。

道中は無心では無く、むしろ楽しい感覚で自転車を漕いでいた。なんなら曲を歌ったりして変な深夜テンションだった。周りから見れば深夜テンションで、自転車乗って陽気な奴だなと思われそうなまでだ。


 そうして20分程経ってスポットに着いた。

そこは彼にとって思い出深い場所だった。

少しばかりの余韻に浸ってた彼はスマホを取り出してある曲を流した。

これまた思い出深い曲だった。

そしてその曲が終わった時、高1の時の親友であり相棒の豊生(ほうせい)に一言連絡を入れた。


 その連絡を入れて、直ぐに彼は川に向かって手に持っていた携帯を、投げ捨て身分を証明出来る物も全て投げ捨てた。

やっと終わるそう思った彼は連続してあるテトラポットを渡って、身を投げ捨てようと思ったその時だ。

カメラぽい物が付いているのを確認した。

流石に川に飛び込んだ所が映り込んでいたら不味いと思い躊躇(ためら)った。


 どうするか考え直した結果別の場所。

少し歩いた先に良い場所があるのを思い出した彼はそこに向かった。

道中、なんでカメラなんかあるんだと思いながら歩みを進めた。

そしてその別の場所は川というよりも海に近い場所だった。

流されたら帰って来れないのが一目見たら分かる位には激しい海流だった。


 またテトラポットを渡って先端まで来た彼は、カウントダウンを取って飛び込もうと思った。

(3,2,1)

心の中で唱えて飛び込もうとしたが、足がすくんで飛び込めなかった。

この後に及んで恐怖に負けるのかと思い、もう一度カウントダウンを取った。

(3,2,1)

次は飛び込んだ。

海水が口の中に入り味覚がおかしいのかと思わされる位、かなり塩辛い感覚だった。

やっと自殺希願者(じさつきがんしゃ)から自殺遂行者になって死ねる。彼はそう思った。


——時間跳躍(タイムリープ)後の彼——


 彼の目の前に飛び込んでいる光景は、とても信じらるものでは無かった。

始めは桃源郷(とうげんきょう)のような走馬灯(そうまとう)を目の当たりにしているんだと思った。



 そう自分の部屋でまるで今まで寝てたかの様子だった。

それになにより自分の部屋と言っても間取りが全く違う。過去の間取りだ。

具体的に、いつの間取りかは思い出せていなかった。


 そんな時、岩地母がノックのひとつも無く秋の部屋にあるドアを開けて一言。

「あき! 起きて! 学校遅れるよ! なに! 起きてたんなら用意しなさい! 今日から新高1生として登校するんだから! 内進生だからって間違っても隣の中学棟行かないでよ! その前に入学式だけどね!」


 何を言われているのか全く理解が追いつかない状態に陥っていた。

言われてみれば、高1位の時の間取りかもしれないし母の見た目も明らかに若く見えた。

ただ、それにしてもおかしい。色々考えながら秋は返事をした。

「わかった」

「ちゃんと起きてる? 制服とかちゃんと用意して無いじゃん。昨日あんだけ用意しておいてって言ったのに」

「ごめんなさい」

「なんか今日変ね、あき。大丈夫?」

まずいと思って焦って返事をした。

「ちょっと寝ぼけてるかな。とりあえず自分で制服着てじいちゃん家行ってくる」

「うん。ちっくんしに行きながら顔出しに行ってあげて」


(懐かしい言葉だ)

 と心の中で思った。


 ちっくんはいわゆる、糖尿病である祖父の採血に向けた言葉で、最近は言わないから秋はその言葉に浸っていた。

とりあえず訳が分からないが、準備をしようと考えた彼は、体が覚えていたために意外と直ぐに制服を着こなしてネクタイも結んだ。

準備を終えた彼は祖父母の家に顔を出しに行った。


 祖父母の家の玄関を開けると、祖母が居たので秋はすかさずいつもの柔らかい声で朝の挨拶をした。

「おはよう」

「おはよう。今日からあっくん高校生だもんね。おめでとう」

高校生と言われたのが、凄く変な感覚だったが感謝の意を込めて返事をした。

「ありがとう!」

「じいちゃんベッドで寝てるからね」

「わかったよ」


ちっくんの準備をしてベッドに向かい祖父に対しても朝の挨拶をした。

「じいちゃんおはよう」

「おはよう。高校生のあっくんもええな」

笑みを浮かべながら返事をした。

「ありがとう」


そうして朝のやることも終えて秋は家を出た。


まだ現実だと思えてない彼は、これから人生で2度目となる高校の入学式に向かって行く所だ。

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