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井戸から又子がきっと来ると思ったら、そのまま落ちて異世界転移でした  作者: 優未緋


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第8話 ちょっと話を聞くだけ、って言葉を信じていいと思う?

呼び止められたのは、昼だった。


 市場を抜けて、

 安いパンでも探そうとしていた、その時。


「そこの君」


 低い声。


 聞こえないふり、失敗。


(終わった)


 ゆっくり振り返ると、

 そこには鎧を着た兵士が二人立っていた。


 別に、睨まれてはいない。

 でも、逃げ道は自然に塞がれている。


「……私、ですか?」


「そう。少し、話を聞きたい」


 “少し”って言葉、信用できた試しがない。


(ここで走ったら、完全に黒)


 私は、笑顔を作った。

 たぶん、引きつってる。


「どうぞ……?」


 兵士は周囲を見回し、声を落とす。


「最近、この街に来た旅人だな?」


「はい」


 一瞬で答える。


(嘘つくとこじゃない)


「魔法は使えるか?」


 心臓が跳ねた。


(直球!?)


「……えっと」


 言葉を選ぶ。


「ちょっとだけ、です」


 “ちょっと”の基準が、この世界で通じるかは不明。


 兵士は、何かをメモする仕草をした。


「井戸の近くに、行ったことは?」


(やめて!フルコンボやめて!)


 でも、行ってないは嘘になる。


「……通りかかったことは」


 兵士同士が、視線を交わす。


 空気が、少し重くなった。


「安心してほしい」


 一人が言った。


「まだ、何かを決めつけているわけじゃない」


(“まだ”)


 嫌な副詞。


「ただ、地盤沈下が続いている」


「原因が分からない以上、確認が必要だ」


 私は、喉を鳴らした。


「……私、何もしてません」


 それだけは、はっきり言った。


 兵士は、じっと私を見る。


 嘘を見抜こうとしている、というより――

 困っている顔だった。


「それを判断するのも、我々の仕事だ」


 そう言ってから、少し柔らかい声で続ける。


「建物を失った人も、出始めている」


 胸が、きゅっとなる。


(……笑えなくなってきた)


「今すぐ拘束、という話ではない」


 でも。


「しばらく、街から出ないでほしい」


 それは、もう十分重かった。


「……軟禁、ですか?」


「保護だ」


 即答。


(言い換えただけじゃん)


 私は、うなずいた。


 逆らえる空気じゃない。


「何か思い出したら、すぐ知らせてくれ」


「小さなことでもいい」


 兵士はそう言って、道を空けた。


「……はい」


 歩き出しながら、背中に視線を感じる。


 逃げてないか。

 変な魔法を使わないか。


 倉庫に戻る途中、私は小さく呟いた。


「……詰みかけてる」


 でも、不思議と。


(でも、まだ“敵”扱いじゃない)


 そこだけが、救いだった。


 倉庫の影。


 ふと、視線を感じて顔を上げる。


 通りの向こう。

 人混みの中。


 フードの人物が、こちらを見ていた。


 一瞬で、目が合う。


 すぐに、逸らされた。


(……気のせい、じゃない)


 胸の奥で、何かがはっきりした。


「……一人で何とかする段階、終わったな」


 小さく笑う。


 状況は、最悪寄り。


 でも。


「……話、聞いてもらえるなら」


 それだけで、まだ足掻ける気がした。

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