第7話 疑われてる気がするんだけど、気のせいってことでいい?
朝。
目は覚めたけど、頭は全然起きてなかった。
「……夢、だよね」
藁の上で、私は天井を見つめる。
昨夜の揺れ。
集まる人。
地面の亀裂。
(夢にしては、リアルすぎない?)
起き上がろうとした瞬間、
倉庫の外がやけに騒がしいことに気づいた。
「朝からうるさ……」
外に出ると、宿主が慌ただしく荷をまとめている。
「……何かあったんですか?」
「ああ、まただよ」
軽い口調。
でも、眉間のしわが深い。
「裏の通り、地面が沈んだ」
(また)
その二文字で、胃がきゅっと縮んだ。
「最近多いんですか?」
「まあな。ここ数日」
数日。
(……私、来てからじゃん)
考えないようにして、私は街に出た。
朝の市場は、活気がある。
パンの匂い。
呼び込みの声。
一見、いつも通り。
でも。
「……ねえ、聞いた?」
「昨日の夜のやつ?」
「また井戸の近くだって」
耳に入る。
聞こえないふりをして、歩く。
「変な魔法使いがいるらしい」
「旅人だって話だぞ」
足が、ちょっと重くなる。
(変な、は余計)
市場の端。
果物を並べているおばさん二人が話している。
「若いって」
「女の子らしいよ」
私は、完全に足を止めた。
(……やめて)
周囲は、誰も私を見ていない。
ただの噂話。
でも、条件が揃いすぎている。
(旅人)
(魔法)
(若い女)
(三点セット、成立しないで)
通りを歩く兵士の数が増えているのにも気づいた。
井戸の近くには、紐が張られている。
立ち入り禁止。
地面の壁に、白い印。
(……これ、普通じゃない)
私は食堂に入った。
人の多い場所なら、少しは安心できる。
「水ください」
出された水を飲みながら、周囲の会話を聞く。
「昔もあったよな」
「最初は小さく沈んで」
「気づいたら、建物ごと……」
スプーンを持つ手が止まる。
(やめて、想像させないで)
誰も、犯人の名前は言わない。
でも、空気が決まってきている。
(“誰か”が原因)
それが、いちばん怖い。
食堂を出て、私は倉庫に戻った。
藁に座り込む。
「……私、何もしてない」
声に出してみる。
「昨日は、井戸出してない」
それも事実。
でも。
「……一昨日は?」
答えは出ない。
逃げる、という選択肢が頭をよぎる。
でも。
(逃げたら、余計怪しくない?)
名乗り出る?
説明する?
(説明できるほど、私、分かってない)
頭を抱える。
「……ちゃんと話せる大人、いないかな」
ぽろっと出た言葉が、やけに重かった。
森での、短い会話がよぎる。
距離を取る視線。
忠告。
(……今なら、聞けたかもしれない)
でも、もういない。
私は深く息を吐いた。
「……とりあえず」
立ち上がる。
「疑われてるだけ、だよね」
自分に言い聞かせる。
「まだ、捕まってないし」
そう。
まだ。
でもこの街で、
私の存在はもう、静かに引っかかり始めていた。




