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井戸から又子がきっと来ると思ったら、そのまま落ちて異世界転移でした  作者: 優未緋


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第47話 見えない場所で、壊れている


 その村は、地図の端にあった。


 管理区域から、ほんの少し外れた場所。

 水量の調整対象には、入っていない。


「……ここ、ですよね」


 私は、乾いた地面を見下ろしながら言った。


「報告があったのは」


「ああ」


 ロウが短く答える。


 風が吹く。

 でも、草は揺れない。


 そもそも、草が少ない。


(……嫌な感じ)


 井戸はあった。


 石で囲まれた、普通の井戸。


 でも。


 水面が、やけに低い。


「……少し、減ってますね」


「“少し”だな」


 ロウの言葉は、事実そのものだった。


 噴き出していない。

 枯れてもいない。


 だから、管理側の報告では――

 問題なし。


「……でも」


 私は、しゃがみ込む。


「ここ、前はこんなじゃなかった」


 村の人が、近づいてきた。


 年配の男性。

 警戒はしていない。


 むしろ、困惑している顔。


「……水、減ってきてましてね」


 その声は、静かだった。


「急じゃないんです」


「だから、最初は気のせいかと」


 私は、喉が詰まる。


(最悪のやつだ)


「管理の方には……?」


「来ましたよ」


 男性は、うなずく。


「調べてくれました」


「問題ないって」


「“全体としては安定している”って」


 その言葉。


 聞き覚えがありすぎた。


「……生活は」


 声が、少し震える。


「困ってませんか」


 男性は、少し考えてから言った。


「困ってない、って言えば」


「嘘になりますね」


 でも、と続ける。


「水が出なくなったわけじゃない」


「だから」


「我慢できる範囲です」


(我慢)


 胸の奥が、きゅっと締まる。


「……誰か」


 私は、視線を落としたまま聞く。


「喧嘩とか」


「ありましたよ」


 淡々と。


「順番で」


「量で」


「誰が多く使った、少なく使った」


「昔は、なかったことです」


 私は、思わず立ち上がった。


「それ」


「管理が入ってからですか」


 男性は、はっきりうなずいた。


「ええ」


「周りの地域が安定した分」


「ここが、比べられるようになった」


(比べられる)


(選ばれてないって、分かる)


「……すみません」


 気づいたら、そう言っていた。


 男性は、驚いた顔をする。


「いえ」


「あなたのせいじゃない」


 その言葉が、

 いちばん、きつかった。


 村を離れる。


 背中に、何も言われない。


 責められない。


 ただ、

 静かに置いていかれる。


「……ロウ」


 歩きながら、言葉を探す。


「これ」


「管理側に報告、しますよね」


「する」


「でも」


 足を止める。


「“問題なし”って処理されますよね」


 ロウは、うなずいた。


「数値上は、そうだ」


「……私」


 思わず、声が荒れる。


「数字、嫌いです」


「さっきの人」


「数字に入ってない」


 ロウは、何も言わない。


 否定もしない。


 それが、答えだった。


 井戸を見る。


 水面が、かすかに揺れる。


 でも。


 前みたいに、

 嫌な予感は来ない。


(分からない)


(でも、確かに壊れてる)


「……私」


 小さく、呟く。


「見えない場所で」


「壊れてるの、嫌です」


 ロウが、低く言う。


「だから」


「君は、ここに来た」


 村の井戸は、今日も水を出す。


 使える。

 問題はない。


 でも。


 この村は、もう“前と同じ”じゃない。


 その変化を、

 誰も“異変”と呼ばない。


 私は、井戸から目を離せなかった。


 見えないまま、

 進んでいく世界が――

 はっきり、怖くなった。


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