第42話 選択の重さが、街一つ分じゃ済まなくなる
知らせは、同時に来た。
それが一番、嫌だった。
「……北の街で、井戸の管理方式が変わりました」
「東の村でも、同様です」
報告を聞いた瞬間、
胸の奥が、すっと冷えた。
「……早くないですか」
「早いな」
ロウも、表情を変えない。
変えないけど、
予想していた顔だった。
地図が、また広げられる。
昨日までと、違う印。
管理区分が、変わっている。
「……私」
小さく言う。
「決めないって言いましたよね」
「言ったな」
「なのに」
地図を指す。
「もう、動いてますよね」
ロウは、うなずいた。
「君が決めないと言ったことで」
「決める側が、判断を早めた」
(そういうことか)
「……選ばない、って」
自分の言葉を噛みしめる。
「中立、じゃないんですね」
「ない」
即答。
「世界規模の話では」
「止まることも、立場だ」
胸が、重くなる。
選ばなかったつもりで、
選ばせていた。
「……北の街」
報告書を見る。
「水量、安定してますね」
「安定しすぎている」
ロウが補足する。
「他の地域から、水が引かれている」
「……え」
顔を上げる。
「それ」
「別の街、困りません?」
「もう、困っている」
別の紙が出される。
小さな村。
水量が、減っている。
急激じゃない。
でも、確実に。
(街一つ、守る代わりに)
(別の場所が、痩せる)
「……これ」
私は、声を落とす。
「管理側、分かってやってますよね」
「もちろんだ」
「全体最適だ」
その言葉が、重い。
「……全体、って」
小さく笑う。
「どこまでですか」
ロウは、答えなかった。
答えられなかった。
「……私」
椅子に、深く座る。
「街一つ分なら」
「まだ、想像できました」
「でも」
視線を地図に落とす。
「これ」
「線じゃない」
「面ですね」
管理区域が、広がっている。
重なり合い、
押し合い、
奪い合う。
(世界、調整されてる)
「……ねえ、ロウ」
「なんだ」
「管理側」
「どこまで行くと思います?」
少しの沈黙。
「……止まる理由が、ない限り」
「世界全体だ」
心臓が、どくんと鳴った。
(やっぱり)
「……私」
拳を、ぎゅっと握る。
「決めない、って」
「逃げじゃないって思ってました」
「でも」
顔を上げる。
「何も言わないと」
「どんどん、決められていきますね」
ロウは、静かに言う。
「だから」
「君の役割は、重くなる」
窓の外。
人は、今日も水を使う。
守られた街では、感謝される。
でも、
静かに削られる場所もある。
「……街一つ分じゃ、済まない」
私は、ぽつりと呟く。
「これ、世界規模です」
「最初から、そうだった」
ロウの声は、淡々としている。
でも。
逃げ場は、もうない。
「……私」
深く息を吸う。
「問いでいる、って」
「思ってたより、しんどいですね」
「当然だ」
「答えの代わりになるんだからな」
私は、目を閉じた。
(でも)
(目、逸らさないって決めた)
管理は、進む。
世界は、動く。
その中で。
私が黙ることも、もう一つの選択になる。
それだけは、はっきり分かった。




