第41話 高校生が決めていい話じゃない
それを言われたのは、予想外の相手からだった。
「……君に、判断を委ねるのは」
一拍。
「正直、危険だと思っている」
静かな部屋。
机を挟んで、数人の大人。
兵士。
役人。
それから――管理側の代表者。
(メンツ、重すぎ)
私は、背筋を伸ばした。
「……危険、というのは?」
代表者は、言葉を選ぶ。
「君は、まだ若い」
「経験も、知識も、足りない」
「そして」
一拍。
「感情で動く可能性がある」
(全部、否定できない)
喉が、少し渇いた。
「……それは」
私は、正直に言う。
「事実です」
部屋が、少しざわつく。
否定しないと思われていなかったらしい。
「私、高校生です」
「この世界の仕組み、全部分かってません」
「判断、間違うかもしれません」
代表者が、少し驚いた顔をする。
「……なら」
「なおさら、君が関わるべきではない」
私は、ゆっくり息を吸った。
「でも」
はっきり言う。
「私が決めてるわけじゃないです」
代表者が、眉をひそめる。
「どういう意味だ」
「決めてるのは」
視線を巡らせる。
「あなたたちです」
「管理するって決めたのも」
「実験を進めるって決めたのも」
「全部」
部屋が、静かになる。
「私は」
続ける。
「それを見てるだけです」
「止められなくて」
「でも、見なかったことにできなくて」
拳を、ぎゅっと握る。
「……それでも」
「高校生が、関わる話じゃない」
代表者は、重ねて言う。
「君一人に」
「世界規模の問題を、背負わせるつもりはない」
その言葉に、胸が詰まった。
(優しい)
(でも)
「……背負ってないです」
私は、静かに言う。
「背負わされてるわけでもない」
「勝手に、背負おうとしてるだけです」
ロウが、壁際で腕を組んでいる。
何も言わない。
見守っている。
「……高校生が」
私は、言葉を選ぶ。
「決めていい話じゃないのは、分かってます」
「だから」
一拍。
「私、決めません」
代表者が、目を見開く。
「……何?」
「選択肢を、固定しないでほしいだけです」
「管理するか、しないか」
「成功か、失敗か」
「そういう二択に」
「押し込めないでほしい」
しばらく、沈黙。
代表者が、低く息を吐いた。
「……理想論だ」
「そうです」
即答。
「でも」
視線を逸らさない。
「理想論を言う人が、一人もいなくなったら」
「それこそ、危険じゃないですか」
空気が、張る。
でも、誰も反論しない。
「……君は」
代表者が、ゆっくり言う。
「自分の立場を、理解しているのか」
「はい」
私は、うなずいた。
「高校生です」
「責任、取れません」
「だから」
「責任を、曖昧にしたくない」
ロウが、ここで口を開いた。
「……彼女は」
短く。
「決めないことで、決めている」
代表者が、ロウを見る。
「……厄介だな」
「そうだ」
ロウは、淡々と答える。
「だから、ここにいる」
私は、少しだけ肩の力を抜いた。
(高校生が決めていい話じゃない)
(その通り)
(でも)
誰も決めないまま進むのも、
同じくらい危険だ。
井戸は、今日も水を出す。
世界は、静かに動く。
その中で。
私は、答えを出さない役を選んだ。
それが。
今の私にできる、精一杯だった。




