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井戸から又子がきっと来ると思ったら、そのまま落ちて異世界転移でした  作者: 優未緋


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第36話 井戸を管理しようとする人たち


 その井戸は、拍子抜けするほど普通だった。


 街道沿い。

 石で囲われ、

 木製の蓋がついている。


 人が並び、

 水を汲み、

 世間話をしている。


(……完璧な日常)


 私は、少し離れた場所からそれを眺めていた。


「……本当に、何も起きてないですね」


「だから、見る価値がある」


 ロウが、低く言う。


 井戸の周囲には、

 見張りもいない。

 兵士もいない。


 でも。


(違和感は、ある)


 胸の奥が、静かにざわつく。


「……この井戸」


 小声で言う。


「誰が管理してます?」


「“管理者”がいる」


 ロウの答えは、曖昧だった。


「……個人?」


「いや」


「組織だ」


 少しして、井戸のそばに数人の大人が集まった。


 服装は、地味。

 武器もない。


 でも、動きが揃っている。


「……あの人たち」


「井戸管理の担当だ」


 ロウが言う。


「水量の測定、周辺調査、記録」


「……役所仕事ですね」


「それに近い」


 私は、目を細めた。


 彼らは、井戸を壊さない。

 触れない。

 使う人を止めない。


 ただ、見て、書いて、調整する。


(危険なやり方)


「……何か、話しかけたら」


「無理だな」


 ロウが即答する。


「表向きは、善意の団体だ」


「水の安定供給を目的にしている」


「……表向き、って言いましたよね」


「ああ」


 井戸の水面が、わずかに揺れた。


 風のせいじゃない。


(反応してる)


「……この井戸」


 私は、はっきり言った。


「誰かの“所有物”みたいになってます」


「そうだ」


「本来、井戸は共有物だ」


 ロウの声が、少しだけ硬くなる。


「だが、管理され始めると」


「境界が生まれる」


(使っていい人、悪い人)


(守る側、守られる側)


 管理者の一人が、井戸の縁に手を置いた。


 魔法は使っていない。


 でも。


 水量が、ほんのわずかに変わる。


「……調整」


 私は、息を呑んだ。


「魔法じゃない」


「仕組みだ」


 ロウが言う。


「水脈に干渉する道具を使っている」


(技術)


(だから、止めにくい)


「……あの人たち」


 視線を外さずに言う。


「悪人、じゃないですよね」


「そうだ」


 即答。


「むしろ、多くの街では感謝されている」


 人々が、管理者に礼を言っている。


 水が安定した。

 井戸が枯れなくなった。


 それは、事実だ。


(正しいこと、やってる)


(でも)


 胸の奥が、きゅっと締まる。


「……ロウ」


「なんだ」


「これ」


 小さく言う。


「井戸が、“選べない存在”になってません?」


 ロウは、少し考えてから答えた。


「……ああ」


「使うか、使わないか」


「壊すか、守るか」


「そういう選択肢が、消えつつある」


 管理者たちが、井戸から離れる。


 記録をまとめ、

 次の地点へ向かう。


 効率的。

 無駄がない。


(世界を、整えてる)


「……管理するって」


 私は、ぽつりと呟く。


「便利だけど」


「怖いですね」


 ロウは、否定しなかった。


「だから」


 静かに言う。


「ここから先は、力じゃない」


「考え方の問題だ」


 井戸の水面は、静かだ。


 でも。


 その静けさは、

 誰かに決められたものだった。


 私は、そっと目を伏せる。


(この人たちと、戦うことになるのかな)


(それとも)


(話すことになるのかな)


 まだ分からない。


 でも。


 井戸を管理しようとする人たちは、

 もう、世界の中に溶け込んでいた。


 止めるのは、

 思っているより、ずっと難しそうだった。


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