第34話 偶然では済まされない数になってきた
私は、地図を一度畳んだ。
そのまま、もう一度広げる。
(冷静になれ)
(感覚だけで判断するな)
机の上には、報告書の山。
場所、時間、水量、周辺反応。
全部、違うように見えて――
「……似てる」
ぽつりと声が出た。
「何がだ」
ロウが、隣に立つ。
「発生間隔」
私は、紙を一枚ずつ指でなぞる。
「場所はバラバラなのに」
「起きてる“タイミング”が、揃ってます」
ロウが、視線を落とす。
「……どれくらいだ」
「半日ずつ」
自分で言って、ぞっとした。
「昼と夜」
「きっかり、半日」
(人が動きやすい時間帯)
別の紙を引き寄せる。
「あと、水量」
「必要以上に、多すぎない」
「足りなくもない」
「……ちょうどいい」
ロウが、低く息を吐いた。
「配給だな」
「はい」
即答。
「供給です」
私は、地図に視線を戻す。
「……これ」
井戸を線で結ぶ。
一直線じゃない。
円でもない。
でも。
「……人が住んでる場所、外してます」
「正確には」
一拍。
「密集地は避けてる」
ロウが、うなずいた。
「被害が出やすいからな」
「でも」
私は、指を止める。
「完全に外してるわけじゃない」
「……“試してる”配置です」
ロウが、こちらを見る。
「どういう意味だ」
「失敗したら、すぐ止められる距離」
「成功したら、拡張できる距離」
言いながら、背中が冷える。
(実験計画)
(しかも、段階式)
「……これ」
私は、はっきり言った。
「偶然じゃないです」
「事故でもない」
「運用です」
部屋が、静かになる。
誰も否定しない。
それが、答えだった。
「……ロウ」
私は、視線を上げる。
「これ、もう止める段階じゃないですよね」
「……ああ」
「止める前に」
一拍。
「理解しないと、次がもっと酷くなる」
私は、椅子に深く座った。
(やっぱり)
「……じゃあ」
小さく、笑ってしまう。
「私、また“考える役”ですね」
「逃げる選択肢は?」
ロウが、確認するように聞く。
「……あります」
正直に答える。
「でも」
指で、地図を叩く。
「これ見ちゃったら、無理です」
ロウは、何も言わなかった。
でも、少しだけ口元が緩んだ気がした。
報告書の山。
整いすぎた数字。
計画された静けさ。
「……優しい顔した計画ほど」
ぽつりと呟く。
「怖いもの、ないですね」
地図の上の井戸たちは、
今日も静かだ。
でも。
この静けさは、管理されたものだ。
偶然では済まされない数。
世界が、誰かの手で
調整され始めている。
私は、深く息を吸った。
(第二部)
(本気で、来てる)




