第32話 一つの街だけじゃなかった
嫌な予感は、だいたい当たる。
それが分かっているからこそ、
当たった時のダメージがでかい。
「……報告、来ました」
ロウが、簡潔に言った。
場所は、仮設の詰め所。
地図が広げられ、紙が何枚も重ねられている。
(この光景、嫌い)
「ここ」
ロウが、地図の一点を指す。
「ここも?」
「ここもだ」
次々と指が移動する。
街。
街道沿い。
小さな村。
全部、井戸の印。
「……ちょっと待ってください」
私は、思わず口を挟んだ。
「これ、全部“異変”ですか」
「全部だ」
即答。
心臓が、きゅっと縮む。
「でも」
地図を見る。
「壊れてないですよね」
「噴いてないし、街も残ってる」
「だからこそ、問題だ」
ロウの声が、低くなる。
「どれも」
「安定している」
(出た、“安定している”)
私は、思わず頭を抱えた。
「……それ、普通は良いことじゃないんですか」
「普通ならな」
ロウは、地図を見下ろしたまま言う。
「だが、同時に起きすぎている」
別の紙が、重ねられる。
数字。
水量。
周期。
「……似すぎている」
私は、思わず呟いた。
「同じ型で作られてる」
「そうだ」
ロウが、うなずく。
「井戸の“仕様”が、揃えられている」
(量産)
喉が、乾く。
「……じゃあ」
私は、ゆっくり言葉を選ぶ。
「これ、どこかで止めたら」
「他も、影響受けます?」
「可能性は高い」
即答。
(最悪)
「……点じゃなくて」
私は、第31話で言った言葉を思い出す。
「線、どころじゃないですね」
「網だ」
ロウが、静かに言った。
「水脈を使った、網」
地図の上で、
井戸同士を線で結ぶ。
繋がる。
繋がりすぎる。
(世界、編まれてる)
「……これ」
私は、指を伸ばす。
「誰が管理してるんですか」
「分からない」
「だが」
ロウは、視線を上げた。
「一人じゃない」
それだけで、十分だった。
(組織)
(個人の暴走じゃない)
「……目的は?」
聞きたくなかった質問。
でも、聞かない方が怖い。
「推測だが」
一拍。
「水を、安定供給するため」
「世界規模で」
私は、思わず笑いそうになった。
「……めちゃくちゃ善意っぽくないですか」
「そうだ」
ロウは、否定しない。
「だから、厄介だ」
私は、椅子にもたれた。
「……壊せない理由、揃ってますね」
「壊したら」
「水が止まる」
「人が困る」
「守られてるって、思われてる」
全部、正しい。
全部、間違ってるかもしれない。
「……私」
小さく言う。
「また、選ばされます?」
ロウは、少し考えてから答えた。
「いや」
「もう、選んでいる」
私は、顔を上げた。
「……いつの間に」
「逃げないと決めた時点でだ」
その言葉が、重かった。
でも。
(否定できない)
地図の上の井戸たち。
どれも、静かだ。
でも、その静けさが――
一番、怖い。
「……一つの街だけじゃなかった」
私は、ぽつりと呟いた。
「世界、巻き込まれてますね」
「これからだ」
ロウが言う。
「ここまでは、準備段階だ」
私は、深く息を吸った。
(第二部、容赦ない)
でも。
(目、逸らさないって決めた)
それだけは、覚えている。




