第31話 次の井戸は、街の外にあった
それは、平和な朝だった。
水は出る。
人は歩く。
街は、ちゃんと機能している。
(だからこそ、嫌な予感しかしない)
私は、街の門を出るところで足を止めた。
「……本当に、外なんですね」
「報告地点は、街道沿いだ」
ロウが短く答える。
第一部が終わったからといって、
世界が優しくなるわけじゃないらしい。
(異世界、継続して厳しい)
街道を少し外れた草地。
人の往来が減り、視界が開ける。
そこで――
私は、確信した。
「……あります」
まだ、見えていないのに。
「井戸、ですよね」
「そうだ」
ロウは否定しなかった。
数歩進むと、見えてきた。
石積みも、縁も、ちゃんとしている。
雑に作られた感じは、ない。
完成した井戸。
(嫌な完成度)
「……これ」
私は、思わず呟いた。
「普通すぎません?」
「だから、厄介だ」
ロウが言う。
周囲に、異変はない。
地面も安定している。
水も、静かだ。
誰が見ても、
“使っていい井戸” に見える。
(でも)
胸の奥が、ざわっとする。
「……誰か、使ってます?」
「近隣の村だ」
ロウが地図を指す。
「最近、水量が安定しすぎている」
(安定しすぎてる、って何)
私は、井戸を覗いた。
水面は、澄んでいる。
深く、暗く――
(……深すぎない?)
「……ロウ」
小さく呼ぶ。
「これ」
「繋がってます」
「どこに、とは言えませんけど」
ロウの視線が、鋭くなる。
「……街の水脈じゃないな」
「はい」
即答。
「街どころか、この地域でもないです」
風が、吹いた。
井戸の水面が、わずかに揺れる。
でも、暴れない。
噴かない。
静かすぎる。
「……制御されてる」
ロウが、低く言った。
「しかも、かなり丁寧に」
(雑じゃない=本気)
私は、喉を鳴らした。
「……これ、何のための井戸ですか」
「分からない」
「だが」
一拍。
「水を汲むため“だけ”じゃない」
その瞬間、理解した。
(これ)
(街を壊すための井戸じゃない)
(もっと、長く使うやつだ)
「……世界規模って」
思わず、口に出る。
「こういう意味ですか」
ロウは、答えなかった。
代わりに、井戸を見る。
静かな水面。
でも、その奥には――
(繋がりすぎてる)
私は、そっと一歩下がった。
「……ロウ」
「はい」
「これ」
はっきり言う。
「一つ止めても、意味ないやつですね」
「……ああ」
肯定。
「もう、点じゃない」
「線だ」
私は、深く息を吸った。
(始まった)
(第二部)
井戸は、静かだ。
でも。
世界の底が、少しだけ見えた気がした。




